第2話 見知らぬ草原

春を感じさせるような暖かい風、雲一つない気持ちの良い青空。動物たちの鳴き声、特に鳥の鳴き声が辺り一帯に響く。

とても景色がいい草原にポツンと俺が立っていた。

辺りを見渡しても自分の現在地がわからない。目立つ様な建物もないし、それ以前に人が住んでいる雰囲気ではない。動物たちが人間から解放された様にのんびりと生きている。

ああ、どうしよう。どうすればいいんだ。

何をやればいいのかわからない俺はそのまま地面に座り込み手で目を隠した。


「ああもう。最悪だ……」


そんな事を一人でブツブツと言った。

いつもは何かがあったとしてもここまでは考え込むことはないが今回は別だ。気付いたら自分が全く知らない場所にいて頼れる人もいない。こんな絶望的な状況はあるだろうか。

このままずっと考えても何も変わらない。だが仮に何か行動してもこんな場所じゃ何の意味もない。

そういえばさっき買った肉まんがあるな。とりあえず食べよう。

ビニール袋から肉まんを取りだし、口に運んだ。

うん、いつも通りの味。もしこんな状況じゃなかったらおでんと一緒に美味しく頂いていたんだろうな。


「ごちそうさま」


さて、本当にどうしたものか。建物があると信じて歩いてみるか?

立ち上がって周りを見渡すがどこを見回しても草原だけだ。

ここはどっかのアフリカかな?


「あ、そういえばスマホがあったな。ワンチャン現在地が分かるかも」


そう思いカバンの中からスマホを取り出す。

スマホの画面を開きパスワードを打とうとした時視線がスマホの左上に行った。


“圏外”


俺はたった二文字で全ての希望を打ち砕かれた。

さあ、どうしよう。ますます状況が悪くなって行った。

もしこのまま誰とも会わずずっとここにいたらヤバい。水源は見当たらないし、食べられそうな木の実とかも無い。

また地面に座り、今度は顎を手で支えた。この体勢が自分にとって一番楽だ。こんなところで楽してもアレなんだけど。


「てか、何でこうなったんだ?」


ふと思いついた事だ。本来ならこの時間は家でグータラとしているのに今は見知らぬ草原で考え事。


「神様のイタズラってやつか?そんな事だったらガチでキレるぞ?」


神様以前に誰かのイタズラって事はないだろう。

だとするとなんなんだ?

一番気になるのがあの魔法陣だよなぁ。あれと衝突したから俺がここにいるみたいなものだ。

CGだったらいいけどテレビ越しじゃなくてこの目で見たから絶対CGじゃないし。

まさかガチの魔法陣だったり。アニメとかだとああいうのはよく見るけど現実でできるやつなんているか? 普通。

仮に魔法陣がガチのやつだったとしよう。そしたら魔法使いがいるって事になる。

もし魔法使いがいるとしてなぜ姿を現さないんだ?別に今の世の中、『魔女を殺せ!』とか言ってる人なんていないし、もし言ってる人がいれば周りの奴から絶対引かれる。

うーん、色々っていうほど考えてないけど今まで絵の考えじゃ魔法使いはいない。たったこれだけで魔法使いがいないって言うのもおかしいしな。

体を大きく伸ばし草原に体を倒す。地面はとてもフサフサだ。


「テストが終わったからしばらくは頭を使う事はないだろって思ってたけどめっちゃ頭使ってるな。これがテスト勉強だったら途中で辞めてるな」


誰かと会話する様に喋るが誰も話し相手はいない。


「もう一度、考えてみるか」


魔法使いがガチでいたとして、魔法を使うには詠唱をするはずだ。どんな長い詠唱でも、短い詠唱でもなんでも良い。

俺が魔法陣と衝突する前そんな感じのやつ聞かなかったかなぁ。

そんな事言ってもある訳がないか……。


いや、待てよ。今日なんかそんな事があった気がする。なんだっけ、思い出せない。

頭を指でグルグルさせながら考える。

その時とても強い風が吹いた。

その影響でビニール袋に入れていた肉まんの下に付いている紙がどっか飛んでいってしまった。


「はあ、どっか行った。肉まんの紙か。ん、肉まん?」


あ、あの時少女に肉まんとおでんを渡したっけ。あの子は今どうしてるんだろ。大丈夫かな。本当なら交番に行って事情を話してたんだけどな。あれ、帰る時そんなこと考えてたっけ? 絶対忘れていた気がするんだけど。ま、いっか。

全く関係ない事を考えていた。こんな時でも関係ない事を考えられるのはさっきより落ち着いているって事なのかな。


ちょっと沈黙して考える。


待てよ、俺が帰ろうとした時確か小さな声で何かが聞こえた様な気がしたな。

確か、『クト』だけ聞き取れた。クト?

『クト』がつく言葉なんてあったけ? 苦闘? 違うな。

ここに来て超難問が出て来た。『クト』がつく言葉を考えよ。

何も思いつかない。俺、国語は苦手なんだよ。今回テストだってヤバいしさ。やばいって言ったら英語もそこそこヤバいな。単語練習ばっかりやってたから本文の勉強が疎かになったしさ。

テストの事を考えてたらある可能性が出てきた。


「もしかしたら日本語じゃなくて英語の単語の可能性もあるな」


その可能性にかけてみよう。

まずは今日のテストに出てきた単語を思い出す。


「クトクトクトクトクトクト………コネクト?」


出てきた答えはconnect(コネクト)

意味は連結とか繋げるなど。


「コネクトか。ん、だとすると俺がなぜここにいる理由が話せるんじゃん。コネクトの意味は繋げる。てことはこことさっきまで俺がいたコンビニを魔法陣とかで繋げれば魔法陣と衝突した時に。いや、正確には魔法陣を通り抜けた時に俺はここにワープしたって事になる」


これなら他人にも説明ができる気がする。説明する相手がいないから説明はできないけど。

指を空の方にグルグルと回しながらこう言った。


「コネクト!」


できる訳ないか。できたら流石に驚くけど。

と思っていたら目の前に赤い光が出てきた。


「なにこれ?」


興味があるので触ってみたら赤い光は当然俺の身長よりでかい魔法陣になった

当然の出来事で思っていた事が口からなかなか出てこない。

もしかしてこれってコンビニで見た魔法陣と全く同じやつか?


「キャァァァァァァ!」


魔法陣の中からどっかで聞いた事がある声が聞こえた。

俺がここにいたら魔法陣から出てきた人の下敷きになるんじゃぁ……

いやいや、まさか出てくる訳がないよな。そもそも魔法があるかどうか分からないやつが魔法を使える訳━━

魔法陣からひとりの少女が出てきた。


その瞬間全てを察した

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