第3話 操ってるつもりが操られてる!?

 では、皆さん。誰でもいいです。身近な方に次の質問をしてみてください。

「信号機の色って何色?」

 多分ですけど、ほぼ全ての日本人が「赤、黄、青の三色でしょ?」と答えるんじゃないでしょうか?

 では、そう返答されたらさらに聞いてみましょう。「いやいや、本当の色は?」

 この辺でピンと来る人がいるかもしれません。しかし、まだ多くの人は、「は? 本当も何も、信号の色は赤、黄、青以外ないでしょ」と言うと思います。

 今、このエッセイを読んでいるあなた。あなたが日本人と仮定した上で聞きましょう。

 ―― あなたがいつも見ている信号の色は何色ですか? ――

 答えは、赤、黄、「緑」の三色です。

 ものによってはまれに青に近いものもあるそうですが、ほぼ全ての信号機は緑色を点灯させて、「進め」を意味します。それにもかかわらず、殆どの日本人は信号機の進めの色を「青」として認識しているんです。

 びっくりですね。

 ではなぜ、現実と認識の間にそのようなずれがあるんでしょうか……


 ずっと昔、日本語では「緑」は色をさす言葉ではありませんでした。

 元々は、「新芽、またはそれを思わせる生まれ出でたばかりの瑞々しい物」と言う意味で使われていたんですね。

 この使い方、現代語にもかろうじて残っています。

 皆さん、「緑の黒髪」とか「嬰児みどりご」なんて言葉を聞いたことがないでしょうか? 僕はこういう「まだぎりぎり現代文?」って感じの表現が結構好きなんですが。

 ここでちょっと余談ですけど、藤子・F・不二雄先生にまつわる都市伝説でこんなのがあります。

 若いアシスタントに、とあるキャラクターの色塗りの指定をしたとき、「彼女の髪は、緑の黒髪って感じに塗って」とお願いしたら、そのキャラの髪が緑色になったしまったんだそうです。嘘かほんとかしりませんが、世代のギャップを感じるエピソードですね。

 話を元に戻します。

 じゃあ古い時代、緑色は日本語でなんと言っていたのでしょう? 実は「青」という言葉一つに、「青色」と「緑色」の意味が集約されていました。そしてその頃の名残がまだ残っており、その一つの例が信号機の色なんです。

 ですが、今の世の中で緑と青を以前の意味で使う人はほぼいません。現代語でこの二つの言葉が意味する物は、「Green」と「Blue」の意味です。そして、現代にも僅かに残る古語の言葉を見たとき、現実と意識の間に小さな乖離が起こってしまうんですね。実際には「緑色」の信号機を見ている筈なのに、言葉の意味に意識が引っ張られ、「青色」として認識してしまうんです。

 

 じゃあ、何でこのような、言葉による認識の違いや混乱が起こるんでしょうか?

 僕は、かなり自信を持っていいますが、これぞ「言霊」以外の何物でもありません。

 人が、コミュニケーションツールとして発明し開発を続けてきた言葉自体が、逆に今度は人の思考に影響を与えているんです。

 文明社会で人間が何らかの活動を行おうとするとき、そこには常に言葉があります。いえ、活動どころか、頭の中だけで何かを考えるだけでも、言葉が基本になってしまっているのです。

 これはもう、人が生きていく上で、切り離せないレベルの話です。

 むしろ、今となっては言葉を持たない野生動物が、どういう思考形態で活動を行っているのかを想像する方が難しいってくらいのレベルです。

 そう考えてみると、言葉が人間の思考に影響を与えるのは当然、むしろ与えない方がおかしいのではないでしょうか。

 

 ここからは僕の勝手な想像ですが、おそらく、昔の日本人は、この言葉自体が持つ力のことを感覚的に理解していたんじゃないでしょうか。

 そして、科学的な解明はさておき、取りあえずその「力」に、「言霊」という概念を作って当てはめたんじゃないかなあと思うんです。

 ただ、科学的に解析は行われなかったため、ある程度誤解や弊害が生まれたのかもしれません。

 それでも、僕はこの考え方、現代社会においても軽んずるべきではないと思います。


 続きます。

 次回はちょっとテーマが変わって「呪い」の話になります。


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