【破】Ⅳ『切り裂き撃ち抜くは黄色の銃剣』


〇 〇 〇


「ああ、もう!『シメンソカ』で『ハイスイノジン』の中、多勢に無勢じゃないの!」


 異常なまでに増加し続ける《アンノウン》。

 異様な雰囲気を漂わせている3隻の母艦。


 度重なる予想外の出来事に苛立ちを覚えながら怒鳴るように愚痴を零すと、エミリアは押し寄せる濁流のように出現する《アンノウン》の群れを蹴散らした。


 《アンノウン》が出現する度、担当エリアはメンバーの能力値に応じてミランダが配置する。

 今回は母艦の出現地がWエリアであり、《アンノウン》の出現率が飛躍的に上がった。


 そのためWエリアは高い戦闘能力を所有するエミリアが担当する羽目になった。【彼】が居れば多くの《アンノウン》を倒すなど朝飯前なのに。『彼ら』が居れば集中して容易に捌けるのに。


「無い物ねだりにも程がある。」


 エミリアは自虐的に呟き、笑う。行方知れずの人間達を考えても埒が明かない。死亡の可能性が高くても生存の可能性を信じる必要が自分達colorsには不可欠であった。


「3年も何処でぼんやりしてんだよ!」


 早いとこ帰って来いっての!と今も姿を晦ませたままの【彼】や『彼ら』に対する鬱憤を晴らすようにエミリアは《アンノウン》を迎え撃つ。

 彼女は銃と剣を併合させた外見の武器を手に雄叫びをあげるように歌い、駆け出した。


 銃で《アンノウン》達の頭や胴体を吹き飛ばし、銃から剣へと形状を変えながら別の《アンノウン》を突き刺して一刀両断に切り伏せた。

 白く変色し始めた《アンノウン》の腹部に蹴りを入れて跡形も残さずに粉砕する。


 その勢いで近くに居た《アンノウン》を切り裂くと同時に剣から銃へと形状を変えて引き金を引いた。

 無論、歌うことも怠らない。絶対に怠ってはならない。歌は《アンノウン》との戦闘において重要なエネルギー源である。歌うことを止めれば出力が大幅に低下し、ギアの活動が著しく衰えるのだ。


 戦力を確保するために仕方なく歌っているに過ぎない。エミリアにとって歌という行為は苦痛でしかなかった。

 彼女は歌を毛嫌いしていた。エミリアがベンジャミンとともにバックダンサーなどのパフォーマンスを担当しているのは『何が何でも歌いたくない』という確固たる信念を突き通した結果である。


 その由縁からエミリアは【歌いながら戦う】という戦闘スタイルに疑問視をしていた。

 しかし、弾丸や燃料が無ければ武器が使い物にならないように歌わなければ《アンノウン》は倒せない。


 取捨選択せざるをえなかった。彼女は最終的に渋々と『《アンノウン》を倒す間は歌う』を選んだ。


「かかって来な、木偶の坊ども!」


 大人しくぶっ倒されろ!とエミリアは叫ぶ。銃から剣に形状を転換させると《アンノウン》の頭部を胴体から斬り離した。

 獣が吼えるように歌いながらエミリアは《アンノウン》の群れを撃ち倒し、斬り倒す。

 全身を駆け巡る血液が燃えるように滾る感覚に彼女は前髪で隠した二つの目を細めた。


 これは、どうしようもない自分の【性分】だ。


 敵を徹底的に潰すことを最大の喜びとなるように強化を施された狂戦士なのだから仕方ないと苦笑する。

 自分を導いてくれた『燻し銀の師』は戦闘によって熱くなりやすい気質を一時的に冷ます術を教えてくれた。

 師のおかげで以前のように形振り構わず、手当たり次第に壊さなくなった。だが植え付けられた闘争本能を抑えることだけは出来ない。


 純真無垢で可憐な少女の頃など自分には全く無い。劣性遺伝子保持者の烙印を押され、兵器となるべくして非人道的な実験と訓練を施された【人でなし】である。


 目の前で蠢く《アンノウン》の中には人間だった《アンノウン》がいても良心は痛まない。

 寧ろ「運の尽きだ」と嗤って剣を、そして銃を問答無用で突き付けることしか出来ない。

 そんな自分にうんざりしながらもエミリアは告げる。


「来やがれ、化け物!斬って撃ってkillしてやるさ!」

『ジョルトイ!いつもの悪い癖が出てるぞ!』


 回線越しに注意を促すフォルテにエミリアは聞く耳を持たずに《アンノウン》への攻撃を繰り広げる。


「『殺してください』と言わんばかりに湧いてくるんだ!倒し甲斐があるじゃないか!」


 エミリアは嬉々として言葉を返すと銃と剣のグリップを強く握り直した。あと少しで殲滅出来る。期待に胸を膨らませたエミリアは苛烈に突き進んだ。対して《アンノウン》は突如として動きを止める。


 その異変にエミリアは気付く。しかし彼女は絶好の機会と捉えた。武器の形状を剣に転換して振り下ろそうとした時である。

 一体の《アンノウン》がふらりと身体を揺らした。他の《アンノウン》に寄り掛かるように倒れる。

 直後、その頭部が勢いよく二手に分かれた。何の躊躇いもなく仲間を喰い殺すように噛み付いたのだ。


 噛み付かれた《アンノウン》は悲鳴に酷似した甲高い声をあげる。もがき苦しみながら腕を凶悪な牙が生えた口へと形状を変えて他の《アンノウン》に襲い掛かる。

 異常過ぎる光景にエミリアは驚愕し、攻撃の手を止めると急いで後退した。


 《アンノウン》達の奇怪な連鎖は加速していく。相手に取り込まれては他の相手を取り込んでいく。

 捏ねて混ぜられる粘土のように互いに互いを取り込みつつ、共食いと呼ぶには不適切で異質な融合を遂げた。

 遂には一体の巨大な《アンノウン》が誕生し、エミリアの前に立ちはだかる。


「嘘、でしょ?」


 エミリアは呆然と『現実』を見上げた。


 《アンノウン》は対抗手段として【学習】をする。昨日まで効果があった攻撃が翌日には全く通用しない。それは日常茶飯事だ。

 合体して巨大化するという芸当も、いつかは出来るようになってもおかしくないのだ。目の前に立つ巨獣が良い例である。


 指令室との通信は続行しているのか、耳元ではフォルテが慌ただしくミランダに何かを伝えていた。

 上層部とのやり取りをしていたミランダは叫ぶような強い口調で退避を命じていた。


 だがそれらの声は目の前の『現実』に呆然と立ち尽くすエミリアには届かなかった。

 巨大な《アンノウン》の足が一歩、また一歩と前進する。ゆっくりと振り上げた太く大きな腕は突風を起こし、轟音を立ててエミリアを薙ぎ倒すように下ろされた。

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