怯える少女と本音の言の葉①

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「キモいんだよ!」

「死ねよ!」

「近寄んな!菌移る」


 私が中学の時そんな言葉は飽きるほど言われた。

 いくら言われても、自分では慣れたと思っていても心のどこかで傷ついていた。


 治ってきてとはいえこの腕にある傷もその時作ったものだ。


 自分で傷つけたもの、他人に傷助けられたもの。


 何もかもが嫌になったある日呟いた。

「最初から本音を言いあえればいいのに」


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「葉那、今日帰りどっか寄らない?」


 私にそう誘うのは同じクラスのれい

 去年、高校に入学した時から仲良くしてくれている、私の数少ない友達。


 誘うと言っても漠然とどこか行こうってだけで特別どこか特定の場所を最初から決めているわけじゃない。



 そのくらい仲が良くても、やっぱり疑ってしまう。

「本当はこの人も私、葉那の事が嫌いなんじゃないか」と。



 きっと長い間嫌がらせとかいじめを受けてきた人にしかわからない感覚。

 だからそんな経験のない大人は考えすぎだと言って笑う。



「めっちゃ暇やった……」


 授業も終わり、放課後。基本的にクラスの上位にいる玲はいつも授業中退屈そうにしている。

 実際、寝ていたりするところを見ると退屈なんだろう。


 放課後は約束通り「どこか」に寄ってから帰る。


「どこ行く?」

「そこのカフェなんかオシャレじゃない?」


 そんなこんなで結局カフェに行くことになった。


「私はアイスティーとこのパフェで。」

 玲はメニューを指さして頼む。

「私は抹茶ラテとこのパンケーキで。」

 私も指さして頼む。

 なんでかって?名前長いんだもん。



「お待たせしました。」


 その声に反応しスマホを出す。


 頼んだものが来たら写真を撮ってSNSに投稿する。

 いわゆる、インスタ映えとか飯テロとかそういう類のやつだ。


 写真を撮ったらやっと食べ始める。

 一種のルーティンみたいなものだ。



 食べ終わったらお別れ。また明日。


 今日はバイトとかがある訳でもなく、真っ直ぐ家に向かう。


 その途中見慣れないお店があることに気づく。


『幸福商店 あなたの願い叶えます』

と書かれた看板が扉にかかっている。



 興味本位で入ってみる。


 店主……にしては若いけど店員ってわけでもなさそうな物腰の柔らかい感じの人が話しかけてくる。

「ようこそ幸福商店へ。当店ではお客様の願いを叶え、幸福にします。」

 ただし一つだけ、と付け足して笑う。


「何か願いはありますか?ええ。あるでしょう。なんでも叶えます。なんでも。」


 叶えられないものは無いと言うかのように自信げにいう。


「じゃあ本音を言い合える世界になってほしいです。せめて私の周りだけでも良いので。」


 昔から願っていた事をここで願う。


「ええ、承知しました。明日の朝には叶っていますから。お楽しみに」


 そう言って帰ることを促される。



 家に帰ってからも願いが叶うのかずっと考えていた。


 常識的に考えてありえない。


 ありえる方がおかしい。



 とても難しい事にぶつかった哲学者がこちらです、と紹介を受けたら周りの人が信じそうだな、と密かに思う。



 けれども時間というのは早くすぎるもので気づいたら寝る時間。


 決まってるわけじゃないけど眠くなってくるもんだ。


 明日の朝には分かるんだからいいか。


 と割り切って寝ることにした。



 明日が楽しみだ。きっと願いが叶っているから。


 疑念しかないのに何故か頭のどこかに確信があった。

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