第十五話「忘れられた仲間達」


「そうだ、彼がこの世界の君、テンザーだよ」


彼の顔は似ているという水準を超えるまでに体の細部までが僕の特徴を捉えている、まるで鏡を見ているような、そんな気分だ。


「君は今回の件で能力の開放に成功したはずだ、そうだろ?してないって事はないよな?僕自ら立てた計画だからね、狂いはないはずだよ」

「僕自ら立てた計画…」


まるでその男の発言を聞いていると、自分が喋っているかと思わされる程に混乱に陥る。


「驚いた?いや、君の顔は僕からも見えてないから分からないんだけどね。君の能力はジンを通じて知ったよ、怒れる狂気か…まあはっきりいって失敗作もいいとこだよ、そんなゴミみたいな能力じゃ僕の足元にも及ばない」

「フフフ…」


ジンがテンザーの会話を聞いて笑いを堪えていた、何がそんなにおかしいのだ。


「さて、まあ君がどんな能力でも提案はする予定だったんだけどね。天界と地界、この世には二つの世界がある。僕たちが住んでいる世界、まあ悪い奴がうじゃうじゃいるのが地界だ、そして君が今いる世界、自称善人共がいるのが天界となっていて、その二つで世界は成り立っているんだ。話を絞ろう、本来なら君を仲間にするつもりだったけど正直いってバランスが悪いんだよね、天界の連中があまりにも雑魚いから君にはそっちの方をどうにかしてほしいんだよ」


奴の言っている意味がさっぱり分からなかった。

天界をどうにかしろ?こいつと天界は敵対関係にあるんじゃないのか。


「この世には二種類の人間がいると言われている、利用する側、利用される側、こんな話は君達の世界でも聞いた事ないかい?でも僕達の世界じゃそれは合っているようで間違っている。二種類というより僕だけが利用する側なんだよ、例えるなら神のようなもんさ、決して傲慢なんかじゃない、なんだったら天界を潰そうと思えば今からでも潰せるよ、でもそれはできるだけしたくない、神はあまり地上を干渉しないものなんだ、だからやる事といえば君達を操っておもちゃのように楽しむ事だけだ」


玩具だと…玩具のようにファイヤスターのメンバー全員を殺したっていうのか。

この眼前にいる男を一発ぶん殴ってやりたかった、だがこれは映像であって実物はどこか別の場所にいるはずだ。

それに僕の体はもうボロボロ、まともに立てるかすら分からない。

死にかけの状態で死ぬ、それが一番まともな死に方だ、と思ったがテンザーの言い放った言葉を聞いてからは、僕は何としてでもこいつを一発殴らないと気が済まない。


「長い話をして悪かったね、僕もあまり長話は好きじゃないんだ。君は今能力の開放に成功している筈だ、成功していないのならこの映像を見る事なくジンに殺されてるからね。さて、話の続きをしよう、僕からの提案なんだが君はこの世界の中心軸となる主人公として僕を楽しませて欲しい、それは勿論僕の敵としてでも、僕の味方としてでもどちらでも構わない、僕がこの世界の主人公になるにはあまりにも強すぎるからね、時間をかけても良い、よーく考えてくれ、僕の味方になるか、天界の味方になるのか」


映像は消える、結局奴は何を言いたかったのか、僕の頭にはさっぱり入ってこなかった。ただ僕に沸いているものは半分が怒り、そして今にでも侵食してくるような勢いで虚無感が襲ってくる。

今すぐにでも死にたい、でもそれと同じくらいこいつらを殺したい、そんな相反する二つの事に板ばさみになり、ジレンマのようなものに陥っていた。


「まあじっくり決めてもいいとの事みたいだよ~もし天界でやっていくのであっても僕がしっかりと君の活躍を伝えてあげるから安心してね~それじゃあそろそろ戻らないと、また会おう」

「待ち…やがれ…」


ジンはブラックホール空間をその場で作り上げ、この場から姿を消す。

周りにいるのは気づけば僕だけになっていた、さっきまでいたファイヤスターのメンバー達はどこにもいない。

彼らが殺された場所には彼らの血が地面にへばりついていた。

特にはっきりと残っていたのはエルシーだ、彼女が死んだ場所では大量の血が地面に染み込み、砂は赤く染まっていた。


「おぇ…うぅ…」


気づけば涙、吐き気が同時に溢れだす。

異世界、いや僕の世界も全部ひっくるめて初めてできた味方だった。

でももう会えない、離せないのだ、なんだったらあの時ミゼッタとファイヤスターの皆を説得しておけば良かった。

僕はあの時、今後の事を考えてどちらの味方になるべきかと利己的な判断をしてしまったのだ、敵がどれだけ危険かもしらずに、今後何が起きるかもしらずに。

ひょっとして…僕のせいか?

ふいに疑問が残る、僕のせいで彼らが死んだんじゃないのだろうかと。

もしそうだとするならば僕は今後どうやって生きていけばいいのか、そもそも生きていけるのか、自信がない。

地べたについた砂粒が頬にへと食い込んでいた、体は動かない、立つこともできない、そして眠い。

僕は眠りにつくことにした、目を閉じる。

このまま体に任せ眠りにつけば、痛い思いをせずに済むだろうとそう思ったからだ。


起きた時には外は真っ暗にへと染まっていた。

僕を襲ってくるモンスターはおろか、ここら辺を歩いている者すら誰もいない。

僕は夜道を黙々と歩くことにする、帰り道は天界であった、この事を知っているのは僕だけだ、ならば僕が皆にこの事を話す義務がある。

例え役立たずと罵倒されようと、天界から追放されようと、僕はこの情報を伝えなければならないのだ。


天界に着いたのは直ぐの事だった、相当近くまで走っていたおかげで苦労する事なくこの場所に着く事ができた。

天門の出入り口付近には二人の門番が立っていて、遠くから近寄ってくる僕を警戒し、身構えた体制でこちらに近づいてくる。


「止まれ!!!」


二人は僕を見回すかのように囲み、顔をじっくりと確認していた。


「天界(ここ)の者です、執行遠矢です」

「ああ、これは申し訳ありません…」


門番は僕から離れると小さい建物の中にへと入ってゆく。

しばらく経つと僕より遥かに大きい門が少しずつ開き、僕はそれを通っていく。


「あの、すみません」

「ん?」

「その…スライザー隊長があなたにお話があるようで、天門を潜ってからの出入り口付近でいいので待ってて下さい」

「ああ、分かった」

僕は門を潜り、出入り口付近でスライザーを待つことにした。

丁度僕も彼とは話があるので都合が良かった、隊長と呼ばれる彼は天界でもかなりの権威者だと捉えてもいいはずだ。

しばらく経った後彼は来た、スライザーは来た。

「あ、スライザー…隊長」

「どうした?ボロボロじゃねえか、何があった?」

「………」


言葉が出ない、帰る途中どう説明しようか色々考えたが本当に彼がなっとくするだろうか、それだけが疑問だ、僕達は黙って外に飛び出したのだ。

いや、嚙んでも詰まっても彼には起きたことをすべて説明するしかない、僕のせいでこうなったのだ、一生この罪は償わなければならない。


「僕達はキングドラゴンの戦いに出かけていました、ドラゴンを倒す事には成功しましたが、突然黒尽くめの男が僕達を襲ってきました、ミゼッタが食い止めている間僕達は逃げました。そしてここまで近づいた時ある男が僕達を襲ってきたんです、それで風見、アクロス、エルシー、アレックス、僕以外のファイヤスターのメンバー全員が死にました」

「………」


スライザー隊長は何かを考えるように目を瞑っていた。

きっと彼も部下として彼らとの思い出が色々あるのだろう、いくら隊長格、天界を背負う立場としても人の死を割り切るのは大変なはずだ。

会ったばかりの僕が目の当たりにしてここまでの悲しみを覚えたのだから、彼は僕以上に悲しみが大きいだろう。


「そのファイヤスターのメンバー?それって誰なんだ?」

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