4-2 気まずい……

 気まずい……。

 そしてQの言ったとおり、お茶もとてもまずい。重苦しいふんいきに拍車をかけるかのようだ。

 広めで家具の乏しい部屋とはいえ、7人もいるのに沈黙が支配しているのもつらい。

 いや、この状況で口々に話しはじめても収拾がつかなくて困るが。

 それにしても、あっさり迎え入れるQがいったいなにを思ったのか知らないが、遅かれ早かれこういう事態が来るのはわかっていた。

 そもそもロードシップがいるのだ。ロードシップがいるということは、いつでもQの所在をつきとめられて当然だ。だが、やつが人間と組んで動いてくるなどとは、だれに予想できただろうか。

 とくに、ギルドの元締めである調査室の役人があっさりここにやってくるという事実。いつでも英雄さんみたいな『執行人エンフォーサー』をさしむけられるということを意味している。

 そして、女医。診療所ははたしてどうなったのか、おちついたらようすを見に行こうとは思っていたが、むこうから来るとは。あの性格だから恨まれてやしないとは思うが、それだけに罪悪感がつのる。

 英雄さんは言わずもがなだ。おれはもちろんのこと、ボルバ、さらにQとは一触即発という空気をかもしだしている。とくにQはやつにそうとう痛めつけられた。あっちのほうにはダメージは残っていないように見えるが。

 

 ずず。


 まずボルバが茶をすすってから、沈黙を破った。

「わたしはおまえたちについて、なにも知らぬに等しい。活動していたときから、粛々と魔法を潰すのみだったゆえだ。だが、きょうはそうもいかぬようだな……」

「いかぬねえ」

 くつくつと笑って、皮肉っぽくロードシップが返す。

「おれたちは全員、ひとつの目的のために集まった。こうなっている以上、全員が手ぶらでここを出ることはないだろうさ」

「ひとつの目的、その子のことっす」

 女医が補足した。言わなくてもわかることではあったが。

 それを受けて、英雄さんはすこし神経質そうに、

「ぼくはおなじ目的で来たつもりはないよ。ただ、話のなりゆきしだいではこの場にいる全員を倒して帰る必要があるかもしれない」

「おう、やれんのか」

「ややこしくなるから座っとけ」

 がたっと立ちあがったQの肩をおれは抑えた。

 しかし、意外とこの人数が会話してもだれがしゃべっているかわかるもんだな……。

 まずいお茶でもみんなの舌がなめらかになる役には立ったのだろうか。

「それにしてもだ、なんでそんな4人がいっしょにいるんだ。まさか入り口でばったりはち合わせしたとかでもないだろ」

「もちろん必然だ。くわしく話すと長くなるから、ざっくりいくぞ」

 ロードシップが、親切にも説明を始めてくれるようだ。

「おれはあのあと実働部隊と乱闘になったが、たいして騒ぎにならんうちに、この男が現れた」

「どうも、あらためまして」

 ぺこりと会釈すると、背広の男はゆっくり名刺をとりだして、うやうやしくおれへ手渡した。役人らしく、いかにも個人発注というデザインの名刺だ。

神前和親かんざきかずちかさんね」

 さきほど紹介は受けたものの、じっさいに書かれているのを見ると、いよいよ重みが増した。調査室直轄の『ギルド』。神罰戦役の渦中のどさくさで発足した準政府機関。

 友好的にやりとりできる相手ではないが、Qのように正体がわからないよりよほどいい。なにより――この場にいる人間のなかでいちばんふつうの名前をしている。

「そのカンザキが、おれたちにひとつ話を持ちかけてきたんだ。きょうここに来るにあたって、ギルド経由でこっちのわかりにくい名前のやつを呼んできた」

「わかりにくい名前で悪かったね」

 不服そうに英雄さんは口をとがらせた。おれもいまだにこいつの名をおぼえていない。カタナだかユウキだか。

「なるほど」

 ボルバは語気に敵意を含めて、言った。

「抱きこみに来たというしだいか。われわれにきさまらの片棒をかつげと」

 直情径行のこいつほどではないにせよ、おれも納得できなかった。応じなければQを力ずくで連れて行く、ということか。人質にとっているようなものだ。

 だが、神前さんはゆっくりと首をふった。なにをするにもゆっくりな男だ。

「当方はギルドに協力しろと申しているのではありません……ましてや天使狩りなどに加われという話でもない。

 なぜなら、これから始めようとしているのは狩りではなく、つぎの戦争なのです」

 ゆっくりと、目のまえの男は、底知れぬ光を瞳にたたえて、告げた。


「片棒をかつげなどと、とんでもない。軍門にくだれと言っているのです」

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