第7話 連れてって

 車がたくさんあるところだね、とロボットが言う。ええそうね、そう答えたのはロボットが運転する青い車だ。助手席にはラジオがある。今は少しゆったりとしたバラードが流れている。彼らがいるところは人里離れた中古車置き場だ。乗ろうと思えばまだ乗れる。事故で壊れたような車たちではないがだいぶブームの過ぎた古い型の車だった。



「ララくん、大丈夫かい?」


「うん、まだ少しショックが続いてるけどね」


「今度からは一緒に行くのやめよう」


「ああ、僕は役に立たなかったし」


「そういう意味じゃないよ、俺ら両方とも彼に改造されるかもしれなかったんだぞ」


「うん」



 青い車はゆっくりと進む。突然オレンジの車のドアが開く。他の車もどんどん窓やドアが開いたり話し声が聞こえるようになった。



「すごい!開けられる!!」


「ワイパーも動く!ああでも運転はできない」


「ほんとだハンドルはビクともしない」


「あの子はどうして動いてるの?」


「運転者がいるに決まってるだろ!」


「ねえ、連れてって!」



 動き出す車たち、そうはいってもエンジンはかからない。青い車が通り過ぎる間話し声がしてバンバンとか、ウイーンと開閉音がする。これもロボットの奇跡のなせる技。たいして大きなことはできない。車はひとりでには運転できない。



「どうするぼっさん」


「なにも。ただ通り抜ける」


「ちょっと複雑だわ。みんな運転されたいもの」


「そういうもんなの?」


「まあ中にはもうたくさんだってのもいるかもね」


「ぼっさん、気に入ったのちょっくら10台くらい乗り回してきなよ」


「えーやだよ。もっともっとって言われたらどうするんだい?」


「そうなったら人気ものだね」


「ララくん元気になってきたね」


「まあね」



 そうして車の群れを通り抜けた。しばらくしてラジオは陽気な曲になる。



「ねえねえ、今ちょっと考えたんだけど。人間じゃなくてロボットだらけのところってあると思うんだよ、世界は広いから」


「ふんふん」


「どこかにもう1台くらいぼっさんみたいなロボットもいてさ」


「私はいないと思うわ」


「レディはぼっさん派だもんな。それでね僕ら言われるんだよ。もっと豪華で自由にしてあげるよって」


「ふんふん、それでそれで?」


「そしたら僕はぼっさんとの旅を終わらせてそいつと暮らす。または旅をする」


「ふむ。まあいい奴なら俺は止めないよ」


「ぼっさんと人間みたいなケンカしないで済むだろ?役立たずだって落ち込むこともない。ぼっさんと出会ってから僕はまるで別人になったみたいにいろんなこと考えるんだ」



 そこでレディが笑う。



「そりゃそうよ。ロボも私も考えられる。ありえないビックリよね、そりゃ別人よ。今まで誰かと話したりケンカしたりできるなんて思わなかった。ケンカ聞いてるのも楽しいわよ」


「「楽しくはない」」


「仲良いと思うのよね、私は」


「まあ、うん。うーん。出会ったらもう、離れられないよ。離れるのはぼっさんよりいいロボットがいたら、もしもの話だよ。ぼっさんに出会わない前になんか戻りたくない」


「そうなの!?俺一度言われたことあるんだ。前の工場でお前のせいでこうなった。会わなきゃよかったって」



 ラジオがビリビリとしたノイズを走らせながら低い声になっていく。レディも同様に少し怒っているような口調になる。



「なんでぼっさんがそんなこと言われなきゃないんだよ」


「そうよ、私を連れ出してくれたロボに向かってなんて言い方」


「ありがとう。その頃はまたこんな友だちができるなんて思ってなかった」



 ロボットは運転しながらお辞儀をした。



「ぼっさんはいいロボットだよ、レディもいい車だ」


「ララもいいラジオよ、私たちいいチームね」


「もちろんさ」

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