第6話 ここは

 ここは


 ここはとある研究施設だ。元はただの電化製品のテスト施設だった。研究員は何人かいて、代わり映えのない機械の強度をひたすら確かめていた。規定の強度を満たさないものは再度壊して作り変えられた。とある研究員が休憩時間に作ったロボット。それが奇跡のロボットとなった。彼は特別な力などなにもなかった。ただ話ができるロボットがほしかった。そのための研究は長年続けていた。はじめにできた試作品はもちろんしゃべらなかったし、できがいいとはいえなかった。何度も何度も作り変えられた。部品をくわえたりなくしたり、けずったりぬったり、他にもたくさんした。いつしか噂が広まり休憩室や自分の家の小さな作業場ではなく、仕事場の大きな実験室を使っていいと言われた。彼は断った。



「これはただの俺のロボットですので」


「別に隣から奪ったりしないさ、そんなおもちゃ」



 そうですね、小さく呟いて彼は実験室で研究を始めた。おもちゃとして子どもたちに語りかけるロボット。動いてあるったり、一緒に冒険してくれるようなロボットがいいな。少し手足は頑丈なものにしよう。そうだな、ちょっと悪口を言ってもいいことにしよう。ケンカだってしたいだろう。友だちとならなんだっていい思い出になる。そんな相手を作ってみたい。彼の思いは膨らんだ、その思いがついに実る時がやってきた。


 材料は使われなくなった廃材や余った部品だった。だからおえらいさんも許したようだった。しかしそんな姿を目の当たりにすれば誰も黙ってなんていられなかったようだ。どうやらあいつのロボットが完成したらしい、喋って動いてるぞ!その情報は一気に施設内に駆け巡った。



「どうだ?調子は」


「悪くない」


「ハロー」


「ハロー?」



 右手を上げれば真似して右手を上げる。それだけではつまらなかったのか手を握ったり開いたりする。



「ヘイボーイ」


「ヘイボーイ?」



 左手を上げれば真似をして左手上げる。同じようにグーパーをして、まるで感覚を確かめているようだ。



「そうそう、いいなロボット。お前の名前は」



 彼が名前をつけようとした時、1番偉い人が彼の目の前で立ち上がるロボットを抱えた。



「あ」


「すごいな」


「ありがとうございます」


「これはどんな仕組みなんだ」


「おい、降ろせよ!」


「おいお前やめろって!」



 暴れるロボット。離してあげると体をパンパンとする。食い入るようにおえらいさんはロボットを見つめる。



「それが、突然動き出してこんな感じなんですよ」


「実験してみよう、こっちにおいで奇跡のロボット君」


「きせき?」


「自分が実験します」


「いや私がやるよ。もっと見ていたいんだ、何もずっと束縛するわけじゃない。いいだろう?」


「もちろんです」



 本当に束縛はしなかった。帰ってきたロボットは施設内の有名ロボットになった。彼だってもちろんロボットのことを実験した。他にもたくさんの研究員がロボットを実験した。たいして成果は同じだった。ただ電池がないと動けないが、到底電池でできる動きではないことが分かった。もう一つそばにいるものにわずかな奇跡がうつることだ。


 しばらく隔離されていたが、てくてくと歩いてだいぶ人も慣れてきた頃、耐久テストの現場に連れて来られた。



「なにやってんだよ!痛そうだろ!」


「痛いのか?」


「あたりまえだろ!?あんなずっとぐるぐる回したり、叩いたり、吸い続けたり」


「いやあああ」


「うう」


「あれ、なんだこれ」



 機械音だけだった施設内に様々な声がこだまするのだ。以前も時折ロボットが誰かと会話しているという実験結果が出たことがあるが、すごい差だった。洗濯機の蓋がバンバンと開け閉めし、泡が飛び散った。掃除機も一斉に電源を落とす。



「どうなってんだこりゃ」


「すごい、動ける」


「電源切った、切ってやった!」


「なんでなんで!?」



 施設内は大パニックで、ものたちは大歓喜している。しかしロボットがその場を離れるだけで、あっという間に元通り静かになるのだった。



「なあ?」


「なんだ」


「なんであんたは俺を作ったんだ?」


「作ってみたかったからだ」


「なんで?」


「…なんでもだよ」


「理由は?」


「うるさいなあ」


「お前がそういうふうに作ったんだろ?」


「そうだよ、そのとおりだ」



 口うるさいし悪口も言う、頑丈な作りのそのロボットと彼はよくケンカをした。



「くそロボット、お前を殴ると手が痛い」


「お前もこんなふうに固くなりゃいい」


「言ったな、今度盾と剣作ってやる」


「ずるい、俺にも作れ」


「なんだそりゃ」



 あの日までは

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