第2話 どこへ行こうか

 青い車が停まっている。中にいるのはロボットだけだ。車の座席を倒してゴロンと横になっている。



「はろーロボ」


「へいレディ?どうしたのさ」


「こっちのセリフよ」



 車内でかわされるのは、青い車とロボットの会話だ。青い車はレディと呼ばれ、女性の声で喋っている。ロボと呼ばれたロボットは男の子の声だ。



「あなたって眠らなきゃいけないの?」


「ううん、眠ってないよ。考え事してただけ」


「じゃあずっと起きてるの」


「あれ、レディは?」


「あなたが来るまで考えたこともないわよ。まあ私の場合はエンジンかかってるかどうかかしらね」


「なら俺は電池だな」


「電池をとったら眠っちゃうの?」


「動けない」



 ムクリと起き上がるロボットは指で器用にお腹のドアを開いた。プラスとマイナスのある電池が2つ逆さ同士で収まっていた。



「ほんとにそんな電池で動いてるの?信じられないわ」


「だから奇跡のロボットだっていったろ?」


「なんでもそれで片付くと思わないでよね。まあ説明がつかないってことね」


「そういうこと。それよりレディはどこで俺を見てるんだい?」


「え、いや、なんていうの」



 レディが動揺すると車体は揺れた。ロボも動いてなければ風も強くない。ロボットはミラーをのぞいて自分の顔を映す。



「俺はこの目だけど、車はてっきりライトが目なのかと思ってた」


「うんとね、えっと、運転してるときは前を見てるわ。もちろん夜ならライトで照らして見るわ、危ないもの」


「うん。今は?」


「うまく説明できない。奇跡なのよねきっとこれも」


「そっか。いろんなところ隠してみる?それでも俺が見えるかでどこが目か探すとか?」


「暇ね」



 急に呆れるレディ。その言葉にロボはビシッと車のメーターを指差す。



「そうなんだよ、暇なんだ!俺何もしないうちに電池が切れちゃうんじゃないかって、今それを心配して考えてたんだ」


「なるほど。あてもなく走り続けても私のガソリンだって切れちゃうものね」


「そうだね。まずは電池とガソリンを集めようか」


「そもそもロボはどうしたくてあんなところを歩いてたの?」


「逃げてどこか俺みたいなのが暮らせるところを探そうと思った」



 ロボは少し笑ったようだった。



「君と一緒ならきっと見つかる気がする」


「そうね。私もそう言おうと思ってたところよ。私を連れ出してくれたあなたなら」


「ありがとう。でもまずはどこへ行こうか?」


「私が今までに行ったところだけじゃダメそうね。まず地図が必要よ。とにかく結局人がいるところに向かう他ないみたいね」


「そうだね」



 ロボットはハンドルを握った。エンジンをかけようとして、ふと車に聞いた。



「いまエンジンかかってないけど」


「起きてるわよ、もう。まあでもそうね。ずっと話してるのも疲れるから、人間と同じで夜になったら眠ったように黙る?」



 おどけてレディがちゃかすと、ロボは冗談じゃないと言った。



「人間と同じようには眠らない」


「じゃあどうするの?」


「話し疲れたら眠ればいい。夜とか朝とかは関係ないよ」


「そうね」



 エンジンをかける。大きな音がしてレディは動き出す。



「ロボ、私あなたに運転してもらえて幸せよ」


「こちらこそ。俺なんかを乗せてくれてありがとう」



 そうして車は動き出した。

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