第6話 視線

緊張感から解き放たれた俺は昨日の夜、早く寝ようと9時にはベットで横になっていた。気付いたら眠りに落ちていた。起きて時計を見たら5時半。熟睡できた様で寝起きが珍しく良かった。『今日は早めに出るね』と蒼蘭からの置き手紙が机の上にあったため、家には俺1人という事を自覚した。

外は昨日の気分と打って変わって快晴だ。

『さて、今日もバイト頑張るぞ!』

そう呟き簡単な朝飯を作ることにした。トーストを2枚トースターに入れてインスタントコーヒーをコップに注ぎテレビをつける。

気は進まないが一応ニュースを確認する。通り魔犯が逮捕されたという記事が読まれないか期待してたが、それどころか通り魔事件自体に触れなかった。ホッとしていいのかいけないのかわからない。

今日は朝から昼までバイトのため早めに準備を始める。

さっさと朝食を済ませバイトに行く支度を始めた。


『高井さん。本当にこの中学生の子が犯人だと睨んでるんですか?』

そう疑問をぶつけて来たのは部下の古池(ふるいけ)だ。

『ああ。お前もあの場にいたら彼女の不自然さを感じただろう』

そう。朝比奈蒼太の妹、朝比奈蒼蘭はおそらくただの中学生じゃない。

『具体的な理由はあるんですか?』

『具体的に言うのは難しいが、あれは普通ではない』

あの時朝比奈蒼太を問い詰めていた時朝比奈蒼蘭はずっと同じ部屋にいた。

普通自分の身内や自分自身にありもしない罪を被らされそうになったらこれでもかと言うくらい反論してくるか、自体の深刻さに頭が回らなくなり何を考えればいいかわからなくなり、何とか罪を逃れようとする発言をするかのどっちかだ。

しかし、あの妹は違った。話を聞いていたのにもかかわらず、全く動じずにいた。

しかも、俺のことをひたすら凝視していた。

『あの妹は何か裏がある。身内も知らない様な裏を持っている。そして...』

『そして?』

『兄の証人になると言い出した時の彼女の目が恐ろしかった』

あの時の彼女の目は、表面だけ見れば兄を助ける一心の妹を演じていた。しかし、その瞳の奥にある何かは淀んでいる様に見えた。

『しかし、それだけでは何も』

『古池、少しは人を疑うことを覚えろ。そうでなければこの仕事はやっていけん』

俺の部下の古池は指示をされたら忠実にこなす優秀な部下だ。応用もきいて何度助かったかわからない。

だが、欠点を挙げるとしたら操作に情を持ち込んでしまうことだ。どんな人間に対しても。

『とにかく、見張りをつける。安田署長にも話しは通してある』

『わかりました』

そう言って古池はまだ納得しきれない表情でその場を去った。

『はぁ』

ため息をつき、この日何本目かわからないタバコに火をつける。

暇そうだし、あいつに頼んでみるか。


『お疲れ様でーす』

昼過ぎにバイト先を出たため、夕飯の買い物に行くことにした。

昨日は疲れ切った俺に代わり、蒼蘭が夕飯を作ってくれた。しかも俺の好物なホワイトシチューだ。

だから今日お礼に蒼蘭の大好きなハンバーグを作ることにした。奮発していいお肉買わなきゃ。

買い物を終え帰宅したが夕飯を作り始めるにはまだ早いため、自室で暇を潰そうと思い向かおうとした。

その時、なにかの視線を感じた。自分で言うのも何だが、俺は人に対しての神経が敏感だ。先日の蒼蘭のことといい、少し神経質なところがある。恐怖心もあるが視線の感じる窓の方へ歩み寄る。もし、この視線の正体が通り魔犯だったら?

そんな恐怖心もよぎったが、意を決して窓を開けた。誰もいない。

気のせいかとも思ったが念のためカーテンを閉め自室に行くことにした。


『次は誰を始末しよう』

あの人を困らせる原因を排除しなきゃいけない。あの時からあの人は暗くなってしまった。もう一度あの時の笑顔を見たい。

そのためには何だってする。誰を排除する?

あの刑事さん?いや、まだ早い。どうする?

『あ、いいこと思いついた』

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