第8話 お姫様の事情説明。

 母さんと千夏がリビングに戻って来るのが遅いので、俺は二人を呼びに2階へ向かう。


「一体二人は何をしているのやら...」


 ベランダのある部屋の扉を開けようとして、ドアノブにかけようとした手が空を掴む。


「兄ちゃん、ちょっと来て!」


 千夏は俺の腕を掴み、急かすように引っ張る。


「ちょっと、引っ張らなくてもいいだろ。」

「いいから、いいから!」


 千夏に引っ張られてベランダに行くと母さんが家の前の道に視線を向けている。

 どうやら洗濯物は干し終わっているようだ。


「母さん、洗濯物干し終わったんならリビングに戻って来てよ。」

「いいから兄ちゃんあれ見て!」

「へぶっ」


 千夏は俺の頭を両手で掴み、道路の方に無理やり動かした。

 首がグキッとした。我が妹よ...俺を殺す気か? 別に口で説明すれば分かる事じゃないか...。


「涼祐、あれ見て〜少し早いけどハロウィンかしら〜。」


 母さんの見ている方に目を向ける。そこには現代社会には相応しくない中世ヨーロッパか! とツッコミたくなるような、物珍しい光景があった。

 ...あの男たちはティリアを追ってた無能な兵士たちじゃないか。

 もしかして、追ってきてたのか?

 いや、男たちの様子を見るにそんな気配はない。


「母さん、とりあえず話があるからリビングに戻ろうか。」

「あぁ〜そうねティリアさん待たせちゃ悪いわよね。」


 千夏は俺の背中をバシバシ叩き


「兄ちゃん! なんで驚かないの!?」


 俺が驚くのを期待していたのだろうが、期待を裏切られ千夏は納得していなかった。


「千夏にも説明するから、とりあえずリビングに戻ろうか。」

「説明って...兄ちゃんはあの兵隊さんについて、なんか知ってんの?」

「そうなんだよ、色々あって知ってんだよ。」

「マジ? 兄ちゃんの交友関係どうなってんの?」

「今日たった1日で異国人の知り合いが増えちゃったんだよ。」

「なんだよそれ...異文化交流とか? ちょっと羨ましいんだけど。」

「その辺を千夏にも説明するから。」

「...分かった。ちゃんと説明してよね。」


 千夏と母さんを連れてリビングに戻る。


「お待たせ、悪いね待たせちゃって。」

「いえ、大丈夫です。そんなに待ってないですよ。」


 母さんも俺に続いてティリアに謝る。


「ごめんね〜待ったでしょう?」

「いえ、大丈夫です。」


 ティリアは笑顔で答える...作ってるのかな? 前に見せた笑顔とは違うように見える。

 俺も友達の親と話すの緊張するから、ティリアも同じ感じなのかな?


「紅茶とジュースがあるけど...ティリアさんはどちらがお好み?」

「えっと...ジュースでお願いします。」


 母さんがキッチンの冷蔵庫へ向かう。


「俺は緑茶で!」

「私はコーヒー牛乳で!」


 ついでに俺と千夏も母さんにオーダーする...が。


「あんた達は自分で取りに来なさい。」


 と断られる。


「はい、そうします。」

「兄ちゃん私のコーヒー牛乳よろしく〜。」

「...分かったよ。」


 自分の緑茶と千夏のコーヒー牛乳を持って戻る。


「それじゃ、話を始めますか。」


 俺は今朝起きた出来事の経緯を母さんと千夏に話し始めた。

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