均等恐怖症は治ってない!

ちびまるフォイ

この後、めっちゃ歪ませられた

「ねぇどうして私と一緒になるって決めたの?」


「それには僕の病気の話をしなくちゃいけないね」


※ ※ ※


その病気はある日突然発症した。


「さて、今日も仕事に行くか!」


電車を待つホームに立ってふとレールを見る。

等間隔でどこまでも続くレールの先を見ていると……。


「あ、あああ、あああああ!!! うわぁぁぁ!!」


呼吸が苦しくなり体の震えが止まらなくなる。

救急車に運ばれる大騒ぎとなった。


「大丈夫ですか? これが見えますか?」


救急隊員が取り出したのは3色ボールペン。

ペンの均等に並んでいるインク線を見るとふたたび症状が悪化した。


「や、止めてくれぇぇぇ!!!」


そのまま意識を失って目覚めたときは病院のベットだった。

周囲はカーテンで仕切られ、なぜか雑にインクをぶちまけたようなデザイン。

先進芸術かなにかか。


「ああ、目が覚めましたか」


「あの……なにが起きたんですか? 急に苦しくなって……」


「あなたは"均等恐怖症"になってしまったんですよ」


「はぁ?」


「この世界には定規で引いたようにキレイで整ったものが多いでしょう。

 自然界にもともとなかったその要素を見続けることで

 体が受け付けなくなる人がごくわずかですがいるんです」


カーテンをちょっと開けてみると、等間隔で並ぶベットを見て吐き気がした。


「僕はどうすればいいんですか!?」


「目をつむればいいだけですよ、ははは」


「それじゃ生活できませんよ!!」


「いやぁ私はスーパー技術を持つ医者でもないんでね」


こうなったら自分でなんとかするしかない。

わざと画面を破壊して均等さを失わせたパソコンを起動し、ネットにつなぐ。



検索:均等恐怖症 対策



「おっ! これだ!!」


見つけた便利グッズをさっそく注文した。

メガネはすぐに到着した。


「では、ここにサインをお願いします」


「その前に段ボールを歪ませてください!

 きれいな立方体を見るわけにはいかないんです!!」


「え、ええ……?」


配達員は段ボールを一発殴って凹ませた。

やっと目を開けてサインをすると、注文の偏光メガネを手に入れた。


「おお! すごい! 本当に歪んで見える!!」


偏光メガネをかけると、すべての風景が歪んで見える。

まさに均等恐怖症のためのグッズだ。これで生活できる。


「やっと外に出れるな。健康なのに病院食なんて飽きていたところだ!」


メガネが無かったら整った形の皿を出されたりする恐怖があったが

このメガネをかけている限り歪むから問題ない。


「はい、おまちどうさま」


「きたきた! おいしそ……おいし……んん?」


出された料理はちっともおいしそうに見えない。

歪んで色もぐちゃぐちゃでなんだかわからない。クリーチャーだ。


もちろん、味は美味しいけれど……。


「料理って……こんなに見た目大事なのか……」


箸は進まなかった。

とても美味しいゼリー飲料を永久に食べるのと同じような苦痛。

美味しいけれど……そこに食事の楽しみはない。


偏光レンズをかけて会社に復帰し、いつも通りに仕事をした。


「ちょっと君! いったいどういうことかね!」


「え? なにかありましたか?」


「入力場所が間違っているよ! どうしたんだい!

 前はこんなミスしなかったじゃないか!!!」


「しまった! 偏光レンズ忘れてた!!」


前は凄腕ビジネスマンとして名が通っていた僕だったが、

偏光レンズありきの生活で仕事のミスは激増。


レンズのゆがみを考慮したうえで仕事をしても小さなミスは発生する。

ますます居場所を失ってしまった。


「ああ……どうすればいいんだ……!!」


この病気を克服する方法はないものか。

追い詰められた僕はひとりの医者を知った。



※ ※ ※


「……という経緯があったんだ」


「それで私のところへ頼りに来たのね。よくわかったわ。

 たしかに私は女ブラックジャックと呼ばれるほどの腕で

 世界の医療のトップにいるものね」


妻は納得したようにうなづいた。


「今はまだ治せていないけど、必ずあなたの病気は治してみせるわ。

 私を信じて一緒になってくれたんだもの。答えてみせる」


「君は僕が、君の医療技術を見込んで結婚した打算的な男だと思ってるのかい?」


「ちがうの?」

「ちがうに決まってる」


「それじゃ、私そのものを……!!」


「ああ、もちろん」





「君の顔を見ていると、なぜだかすごく落ち着くんだ」



トキメキかけた妻はすぐに冷静になった。


「おい、それってどういう意味だコラ?」

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