&26 魔統の秘密とリーネの頭脳?

 ニナリンゼが指揮棒を縦に軽く振ることでウィンドウを3枚ほど出す。


「この世界で魔統まとうを扱う私たちのような人については、先程までの説明で理解してもらったと思いますが、私からはその中の、個々の扱うことのできる魔統の量について説明させていただきます。ここに出した資料は、右から開発されている魔統力の内容を現象で別けた図、魔統力階級の全体図、各国の最上階級魔統力保持者数を表した図です」


 紹介されたように、それぞれは適した図として表されている。魔統力の現象別図は円グラフ、魔統力階級は三角形の図、最上階級魔統力保持者数は地図に加えてあり、それぞれが色別に観やすく整理されていた。


「最初に説明するのは魔統力の現象別についてですね。この世界では大きく8つにこれを別けていて、火・風・水・光・召喚・地・闇・時空という感じになっています」

「さっきの順番で火の魔統が一番多くて、時空が少ないな。これって、何か関係あるのか?」

「はい。いくつか理由がありますが、主に2。1つ目は魔統力が発見されてから、それぞれがどのくらい開発されてきたかということです。特に闇や時空は近年になってから取り組む者が増えてきたので、数年前に比べたらこれでも増えた方なんですよ」


 そう言うと、例えばというようにそれぞれの属性で基礎となるような魔統をニナリンゼが披露ひろうしていく。それぞれが手のひらに収まるほどで行われ、全て出し終わると、いくつかの組み合わせで混ぜ合わせることも可能だという説明をしていく。

 火の魔統とかは、基礎であってもキャンプとかで便利そうだなって思ってしまう。ただ、驚いたのは水・光・地・闇はそのもの自体がその場に存在していないといけないことだ。僕たちが元の世界で知ったポンポンと便利に出せるのとは違うそうで。


「光・闇は、意外と困ることは無いんですけどね。光は火の明るさでもできますし、闇は影からつくり出せます。しかし、水や地については実際に触れていないといけないという面があります」

「どうしてそれだけ。それについても、理由が分かっているんですか?」

「いえ。魔統の開発は活発に行われていますが、その原理を調べようと思うものは少なく、この原因も判明はしていません」


 ニナリンゼがため息を大きくする。それを見たリーネとケティーが苦笑い。


「ニナリンゼは、その少ない者の中で頑張っていましてね。もう少し人が増えたらと毎回ぼやいているんですよ」

「調査するには、いろいろな場所を訪れたり、実験するのが常ですからね。資金については、ノリアント国魔統代表ということで援助を受けていますが」

「それだったら、金で雇えばいいんじゃないか? そうしたら、問題解決になるだろ」

「……私も最初はそう考えたのですが、どの人たちも『それよりは開発が先だ』と口をそろえて言うんですよ。使えればそれで仕事ができるという目先の目標にとらわれている結果だと私は考えていますが」


 持っている指揮棒に力が加わっていく様子がよくわかる。意外とストレスが溜まっているんじゃないかなと思いつつ、みんなに倣って苦笑いをしておく。


「まぁ、そんなこんなで魔統についての開発は現在も活発に行われているのが一つ目の理由でした。次の理由に入りましょう」


 ニナリンゼは並んでいたウィンドウの順番を変えて、先程まで真ん中にあったものを自分に近いところへ移動させる。


「2つ目の理由ですが、それは魔統力階級に関係してきます。このグラフでは、上にいくにしたがって魔統力が大きいものを示します」

「えっと、下から兵科へいか階級、騎士階級、指揮階級、創始そうし階級の四つみたいダね。それぞれの判断基準はあるんですか?」

「各国にて、年2回の試験を設けて判断しています。扱うことのできる魔統力やそれに伴う知識を有しているかが見極めとなり、満たしていれば上の階級に上がっていくという仕組みです」

「それだったら、受けるやつも多いだろ? それに伴って上の階級も増えるだろうし」


 タクがそう言うと、ニナリンゼは首を横に振った。


「確かに、兵科階級から騎士階級に上がる者は全体から考えると多い方ですが、それ位上の階級に達するには1つの問題を解決しないといけません。その問題とは、生まれてからの魔統力保有許容量です。この許容量は各魔統を発動する際に多く関わってくるもので、これが多ければ階級も上に上にと上がっていきます」

「ちなみに、私は指揮階級でケティ―も同じですよ。この場ではニナリンゼが創始階級です、羨ましいです、にくいです!」

「い、いえ、陛下。落ち着きましょう、もしかしたら、今後何年間で上がるかもしれませんし」


 ニナリンゼが睨んでくるリーネをどうにか落ち着かせようと言うも、次には「いつになるか分かったもんじゃ」と拗ねてしまう。……まぁ、次の話だ。


「いまリーネに言ったように、許容量って増えるんですか?」

「その人の、それまでに積んだ経験によって増えるものだと考えられています。実際に調査を行ったところ、そのような傾向が背景として見られることが確認されています。しかし、元々、魔統力を保有できる器を持たず生まれた者は、それができません」

「想像はしていたけど、残酷ざんこくダよね」


 昼には、時間ができた日にケティ―の診察所へ行って、魔統力について検査してもらうなど話していたが、元の世界とつなげるネクテージを通ってきたときの魔統使用率を見たら無いと判断されているようなもの。あぁ、神様。どうにか少しだけでも使わして下さいよ。

 さて、脱線しすぎるのも何なので理由の話に戻ろう。さっき、ニナリンゼが言っていた許容量によって各魔統の発動に影響してくるということ。つまりは、それぞれを使用するには必要な魔統力量があり、それによって階級分がされているということだ。


「8つの魔統で開発速度が違う理由の話に戻るけど、つまりは地や闇等のような魔統は使用する魔統力量が膨大で、扱える者が少ないということが原因かな」

「……正解です。まさか、ここで気づいて下さるとは。陛下より頭がよろしそうで、私としても―――」

「誰が頭が悪いですか! 私だって一応は民を導く者として勉強はしているのですよ。その気になればハルにも勝てます!」


 リーネは僕の方にびしっと人差し指を向けてくる。いや、そんなこと言われても。

 彼女がそう宣言した時、これまで説明していたニナリンゼがニヤッとした。


「そうですか、そうですか。……ではこの後、証明していただきましょうか。勉強というカタチで!」

「……え? い、いや、この後はハルとタクからいろいろ教えてもらう予定で―――」


 先ほどの言い放った威力は何処へやら、汗をうっすら垂らしながら小さくリーネが反応する。しかし、それをニナリンゼの一言が一蹴いっしゅうしてしまう。


「自分の世界を学ぶことが一番に大切です!」


 先ほどと違って、今度はニナリンゼが怒る番だ。

 リーネが助けてと目線をちらちらと送ってくるが、口を開こうとしたら、リーネに向けられていた険相のままニナリンゼが振り向いてくる。はい、何も言いません。


「陛下が決心されたので、今から早速向かいましょう!」

「い、いえ。話はまだ終わっていませんよね。ほら、タクとかとても興味があってたまらないというような顔をしていますよ。そうですよね、タク!」


 リーネから的となるボールを投げられたタクは「えっと」と小さく言って判断に困るが、僕と同じようにニナリンゼからの圧が加わると、首を大きく横に振った。


「だ、大丈夫だ! 勉強が大切だもんな!!!」

「み……見捨てないでくださいよ!」

「では行きましょうか、陛下。誰か、陛下の連行を」


 ニナリンゼが使用人用の出入り口の方を向いて言うと、何人かのメイドが出てきた。そして、両脇をブロックされ、何人かで周囲を囲むことでさっさと部屋を後にしていく。最後に出ようとしていたメイドが、笑顔でお辞儀をして扉は閉められた。

 少しの間、静かになる。残された僕たちはどうすることじゃないが、説明を突然絶たれてしまってはこの後すらどうしようもない。せめてもの意見として、部屋に残っていたケティ―の方に視線を送る。

 彼女も最初は苦笑いをするだけだった。


「あの子は昔から勉強が嫌いでね。昔から、ニナリンゼの授業を抜け出しては私のところに逃げてきていたんだよ」

「あ……はは。それはそれは」


 ニナリンゼが必死になるのもそれが原因のようだ。世話するのが大変だったんだろうな。

 さっきまでニナリンゼが立っていた所にはウィンドウが残り続けており、それを僕たちが見ていると、ケティ―がしょうがないと言ってそれに近づく。


「最後までしっかり説明していってほしいけど、しょうがない。私が最後のグラフについて、ささっと説明しよう」


 ケティ―は3枚のうち真ん中にあるウィンドウのすぐ横に立つように移動する。ニナリンゼのように順番を変えるようではなさそうだ。


「えっと、これは最上階級魔統力保持者数についてだったね。見てもらえばわかるように、この島国では7つの国に別れていて,、それぞれの国で創始階級の魔統力保持者はこのようになっている」


 各国には、国名とその横に数字が書いてある。合計しても22しかいないようで、この国『ノリアント王国』には2人と書かれていた。これは、帰れなくなったことを聞いた時に一緒に聞いた。それぞれの国によって1人だったり4人だったりしている。意外とバランスが悪そうな感じだ。


「創始階級の人ってこンなに少ないンですね。もう少しいるのかなって思っていたンですけど」

「それだけ難かしいってことだ。あのニナリンゼも、途方もなく訓練を組んだことで今の創始階級という地位にたどり着いたんだから」


 この現状を見せられると、確かにニナリンゼという存在はすごい人なんだと思ってしまう。怖いけど。

 そう思って、もう一度地図を見る。


「……そういえば、この国って僕たちの世界で言う中部地方あたりのことを言うンダね」

「この町は都市だろうけど、どこら辺に当たるんだ?」

「ん? この町はここだが」


 ケティ―は、元の世界で言う知多半島に当たる付け根あたりを指す。意外と地元近くだったんですね。

 こうして、食事会兼説明会は終わった。異世界生活初日は触れ合いつつも、何ともおかしな終わり方で次の日を迎えることとなる。

 皆、キャラが濃すぎ。

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