第一状況 やることを探して 

&15 バカな夢か豪勢な現実か

 朝なのか、昼なのか。

 1人で使うには大き過ぎるベッドに転がりながら心地よい眠りから目が覚める。窓から入ってくる光はちょうど目に入り、自然と反対側に寝返ってしまう。眠さはあるが、そろそろ起きなくてはベッドから抜け出せなくなる。

 目をもう一度開くと、いつもと違う大きな部屋が広がっていた。まるでいいところのスウィートルームのようだ。

 なに、この部屋。

 掛布団かけぶとんを勢いよく退けるように体を起こす。

 間違いなく、僕の部屋じゃない。どういうことなのかと自分の記憶きおく辿たどろうとする。

 その時、この部屋唯一のドアが開けられた。


「お、やっと起きやがったか。何時だと思っている。リーネがお待ちだぞ」

「お……おはよう、タク。……ここってどこダっけ? リーネが待っている?」

「おいおい、寝過ぎて記憶が曖昧あいまいになっているのか?」

「うン、何か異世界に来た夢を見たようなんダけど。まさかそンなことなンて―――」

「こいつ、マジで言ってんのか」


 話しながらこちらに近づいてきていたたくみが最後の返答にその歩みを止める。

 巧は藍色あいいろ基調きちょうとした服を着て、いくらかのきれいな装飾が施されていた。

 彼はため息をついて、どうしたもんかと言いつつ髪を掻く。


「ハル。正直に、真面目にな。お前が夢だと思っているのは違う。今のこの部屋がいい例だが、ここは異世界の城ん中だ」


 巧は部屋も中を見てみろと言わんばかりに大きく手を開く。促されるように360度見渡し、最後に自分の寝ていたベッドも視野に収める。


「お前の家にはこんな部屋があったか?」

「ないね。こんな大きな部屋なンてないよ」

「じゃあ、こんな部屋に泊まれるほどの友達、もしくはお金なんてあるか?」

「それもないね。僕の知っている限り、タクの家も含めてこンな部屋を見たことない。それに、僕の貯金じゃ、泊まれないダろうし」

「そうだろ? これは、俺たちが救った王女のリーネとその父さんが準備させてくれた部屋なんだから。そんな夢のようなこともなかったか?」


 確かに、夢を辿っていくとそんなようなものがあった。ということは。


「もうすぐお昼だ。さっさと着替えろよな。今日は一緒に街を観させてもらうことになっていただろ? 広間で待ってるぞー」


 彼はそう言うと、下で待っているとのことで部屋を出ていくのだった。


「ちょ、タク! この状況を放り出していくのか!? 広間って!?」

「広間はこの部屋から直ぐの階段を下りて行けばわかる。それにな、俺は男の着替えなんて観て、得することなんてな・い・ん・だ! リーネと話している方が有効な時間の使い方っていうもんだ」


 巧はそのように言うと、片手を振りながら去っていった。

 本当なのか? 確かに、リーネっていう子は観たような気がするけど。


「……異世界の城。まったく実感が持てないよ」


 ベッド横に置かれていた机には、スマホと見たことがない服が置かれている。先程、巧が着ていたモノとは違い青を基調とした服に白の太い線が上から下に描かれている。触り心地はシルクに近い良さ。

 自分の持ち物ではないことは明確。

 ベッドから抜け出して近くの窓から外を確認しようとすると、下には町が広がり、随分遠くに広野が見える。自分がいるところ以上の高さの建物はなく、どれもこれもが3階以下だ。

 頬を一回つねる。……嘘じゃない。


「……はぁ。もう、信じるしか選択はないのかなぁ。ここは異世界で、高い高い城の中」


 まだ机の上にあるスマホに目を向けてみると、なんだか現実であってそうでないともいえる状況にとらわれそうだ。まぁ、このまま止まっていてもしょうがないけど。


「リーネが待っているって言ってたし、着替えるか」


 考えることは一旦いったん後にし、動き出すことにした。

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