&14 夜中の城内は反省場

 帰ることができない発言を受け付けてから1時間近く経った今、場所は変わる。たくみとハルートは異世界の関係者諸共もろとも、ノリアント王国城内のある部屋に集まっていた。

 中には12人が座れる椅子と大きな机があり、窓側の椅子に2人が、リーネとニナリンゼがドアに近い椅子に座る。そして、2人にとって左手の反対席とも等しい距離の席に老人が座った状態となる。

 彼はニナリンゼが一通り説明するまでに何回もため息をつき、話し終わったときにはするのを躊躇ためらうほどであった。リーネはずっと申し訳なさそうな顔を続け、他の者はその光景を苦笑いするだけだった。


「……さて、話をまとめようか。リーネは小さい頃に商館の2階倉庫だった場所でおかしな穴を見つけ、それを人が通れるような大きさにするための機器を造る。そして、その先に行ってみたらこの世界ではないところだった」

「はい、その通りです……」

「調査気分で歩いていたところ彼らと出会い、魔統まとうを使用したことによって欠乏状態になる。1人で帰れなくなったことから、彼らに手伝ってもらうことで無事、今に至っている」

「はい、その通りで―――」

「ただ、彼らが帰ることができなくなってしまったんだな?」

「……すみませんでした!」


 最後の言葉に対しては巧とハルートの方に向いて頭を下げるリーネだった。

 深く腰掛けていた老人は彼女が誤る姿を見て、身を机に近づける。


「展開が急すぎて理解しがたい。……いや、理解したくないのかもしれない。違う世界が存在していたことだけで驚くことだが、その世界の方をお帰しできなくしてしまったとは。どうしてお前は毎回毎回―――」


 ニナリンゼの横でどんどん肩身が小さくなっていくリーネは、部屋にいること自体が限界を迎えそうであった。

 通された部屋は普段、国王と国を訪れた他国の重要人とが話すような場所。そして、現在も小さくなっていく彼女を呆れたというように叱りつけている老人はノリアント王国先王。つまり、リーネの父親に当たる人だ。声量は穏やかながら、言葉が段々と厳しくなっていく。たまに「国王として」とか「昔から」というような言葉が重複して言われることがあり、巧とハルートを置き去りにしていく。

 叱り始めて数分、言葉の圧から解放された彼女は机に頭を投げ出し、伸びていた。観ていられない状態である。

 そんな彼女は卓上の戦線を一時離脱する感じとなり、話し合いは被害者側との間になった。


「この度は娘が仕出かした事とはいえ巻き込んでしまい、さらには帰すことができなくなってしまったこと、大変申し訳ない」


 先王が深々と彼らに向けて頭を下げる。それにはリーネが謝る時のようなものではなく、権威者けんいしゃが行うような重みのある謝罪しゃざいであり、ハルートはゾワッとした感覚を覚える。


「いや、頭を上げてくダさい! 僕たちは、リーネが話をしようとして力を使ったことで倒れたのを助けただけです」

「グサッ!」


 卓上に転がる頭が、音を立てて一回跳ねる。


「そうです! 取り残されたのも、使用する魔統が足りなくなってしまっただけらしいんで!」

「グサッ!!」


 卓上の頭は、また跳ねる。


「それに、起きてしまったことにずっとネチネチ言っていてもすぐに解決することではないんで!」

「だ・か・ら! すみませんでした!!!」


 転がっていた頭はいよいよ起き上がり、椅子を跳ね除けるように立ち上がる。リーネは今にも泣きそうな顔をして、身を乗り出しながら2人に謝り、だからもう止めてという雰囲気をかもし出していた。

 遊び半分で言い出していたが、泣かれては困るので止めることにした。彼女に「ごめん。悪かった」と言い、どうにか座ってもらう。

 彼女は鼻をぐずつかせながらも、また席に縮こまる。

 先王はため息をつく。


「まぁ、彼らがこのように言ってくれて本当に良かった。事としては一大事に入ることだからな。……リーネ」

「は、はい!」

「お前は、彼らが帰れるように動かなければいけない。判っているな?」

「それはもちろんです! お世話も、私がしっかりさせていただきます!」

「いや、それは許せん」

「えぇ!?」

「お前だけに任していてはどうなるかわからない。国賓こくひんとならずとも、それに近いもてなしをしなくてはいけない。一国の王が私情で仕出かした事だからな」

「うぅ……」


[昔、何かやったのかな?]

[まぁ、後始末が大変そうだったということは分かるが]


「君たちもそれで大丈夫だろうか?」

「は、はい。僕たちは、こちらから帰られるまで暮すことが出来れば大丈夫なンで」

「流れに身を任せてみるのも楽しそうだしな」

「ありがたい。では、今回の話はまずここまでにしよう。時間も時間だ」


 先王は窓の外を見る。それに続くように巧とハルートも見ると、月のような星が沈みかけていた。あと少しで朝になることを表している。


「部屋を用意させる。ゆっくり休んでくれ」

「やっと休めるー」

「おい、タク。先王様の前ダぞ!」


 巧のダラけ様にハルートが指摘すると、それを見て先王が笑う。


「よいよい。リーネを助け、今の今まで話ばかりだったらしいからな。ゆっくり休んでくれ」

「「ありがとうございます」」


 ググゥゥゥーーー。

 ……。


 部屋の中を唐突にある音が響く。それは紛れもなくお腹の鳴る音だ。それが聞こえた先、腹虫の飼育者である者の方を全員が見る。

 顔を真っ赤にしてお腹に手を当てる少女が座っていた。


「殿下、お腹が空かれたのですか?」

「は、はい……。出発してから今まで何も食べていなかったので」


 恥ずかしそうにして、席の反対側に顔を合わせないようにする。


[「可愛いな]]


 そういえばと、ハルートはスマホの画面を覗き込んだ。充電量が89%を示す。


(電池はまだ大丈夫かな)


 20時51分と映し出された画面を見て自分のお腹もさすってみた。


「そろそろ僕たちもお腹が空いてきたね」

「そうだな。寝るのもいいが、沢山動いたから腹がな」

「リーネはあれだが、それはすまない。簡単ですまないが、料理を準備させる」


 先王はそう言うと部屋の入口に立っていたトルヴァを近くに呼び、料理を運んでくるように指示した。執事が出ていったところで、皆が飲み物で一息をつく。


「そういえば、お父様?」

「朝食後に話があるから来なさい」

「……はい」


 親子間の話は続くようであった。


「それで、用件はなんだ? 彼らのことなのか?」

「はい。御二方との紹介が出来ていないので……よろしいですか?」


 「確かにそうだった」と言うと、先王は席を立ってまずは近くにいる巧に片手を伸ばす。それを見るや2人もすぐに立ち上がり、巧が手を取る。


「私の名は、アスハルト・ノリアントという。今は国王の目付け役として余生よせいを過ごしているところだ」

「俺は野ノ米ののまい たくみっていいます。よろしくお願いします」


 次にハルートと手を取る。


「僕は久倉ひさくら ハルートです。よろしくお願いいたします」

「ノノマイ、ヒサクラ? それが名前なのか?」

「お父様。巧とハルートが名前ですよ」

「ほほう。さすがは違う世界の方だ。そのような習慣は初めて聞いた」

「いや、僕たちの世界でもこの世界のような名前のところもありますよ」

「そうなのか。興味深いな……。どうだろう、料理を食べ終わるまで、向こうの話を聞かせてくれないか?」


 アスハルトは唐突に提案をしてくる。それに対しては否定する理由が彼らに無かったので、すぐに了承をする。しかし、これについて困ることが一つ。

 机を挟んだ先に、どこから取り出したのか。書くものを持って、準備オッケーというような状態になっていた。目は輝いて、身を乗り出してくる。それは、彼女が魔統力切れから復活した時の質問攻めを思い浮かべられるようだった。


[これって、定めダよね]

[転校生の気持ちっていうもんだよな]

 笑いながらも2人は、元の世界について話を始めるのだった。

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