&11 お目覚めの叱り

 順に部屋へ入っていくと、運び込んだ時には真っ青な顔だった王女様が少し火照ほてっているかのように赤くなっていた。見る限りでは元気そうである。

 たくみとハルート、ニアリンゼは彼女の様子をうかがうために部屋を進んでいく。トルヴァはというと、先程まで治療していた医師から説明を受けているようだった。3人がベッドの近くまで行くと、彼女は巧とハルートが出会ったころと違った優しい表情を見せる。


「陛下、ご気分はどうですか?」

「す……すみません。軽率けいそつな行動を採ってしまいました」


 顔は笑っていても、口から出る言葉は全くそれに沿っていないことを巧とハルートは分かった。彼らに分かるということは王女もしかりで、だからだろうか。もしくはそういう性格ということか。王女はすぐに自身のとった行動の過ちを認めた。


「陛下が倒れられたと聞いたときは、とても心配したのですよ?」

「聞いた時だけですか?」

「理由さえ聞けば、誰もがあきれる方を勝らせます。あれほど危険なことをしないようにと―――」

「それについては先ほど誤ったではないですか。それに、今回は下調べをよくしてからやったのですよ」


 王女がそういうと、ニアリンゼは「ほう」と短く答える。彼女はもしかしたら蛇を踏んでしまったのかもしれない。


「その結果がですか? 天然魔統まとうがほとんどないという世界で体内魔統力を使い切るなど。まだ子どもの方が賢いですよ」

「なっ!? つ、使い切ってしまったのは、そこの御二方と話をするためにしたことで―――」

「それで?」


 会話が進むごとにニアリンゼの眉間みけんのしわが濃くなっていく。漫画で表したら、1コマに入るだけの『ゴゴゴゴゴ……』というワードであふれることになるだろう。

 これには王女が折れる。


「……すみませんでした」

「これからは気を付けてくださいね」


 彼女は小さく「はい」と答える。

 一部始終をニアリンゼの斜め後ろから眺めていた巧とハルートは話の途中、ベッドの上から何度か救難きゅうなん信号を探知していたが、それを救助することはなかった。まさか目の前に立っている女性があれほど怖いと思わなかったからだ。


[あの人には気を付けようぜ、相棒]

[地雷がいくつあるかわからンね]


 小さく情報共有を終わらしておく。

 部屋の入口あたりで話をしていたトルヴァは話が終わったのか、医師をどこかに案内しに出ていくところだった。ハルートはドアが閉まるまでその様子を見ていたが、横に立っていた巧に肩を叩かれたので、何事かと振り向く。こちら側を王女とニアリンゼが見ていた。


「改めまして、この度は助けていただきありがとうございました。あなた方のおかげでこのように回復することができました」


 彼女は小さくお辞儀をする。


「いやいや、これもなんかのえんだ。気にすることはないぞ?」

「そうですよ。困った人を助けるのは当たり前のことなンですから。気にしないでくダさい」


 2人はあくまでそういうが、王女が倒れる理由となる力を使わせてしまったのは彼らであり、背中を汗が伝う。

 しかし、彼女はクスっと笑う。


「お優しいのですね。私の名前はフィオリーネ・ノリアントと申します。リーネとお呼びください」

「リーネ様でよろしいでしょうか?」

「様はいりませんし、敬語もいいですよ。リーネと」


 彼女は笑顔を絶やさない。本当にいい子なのだと2人は思うのだった。


「わかりました。よろしく、リーネ」

「よろしくな、リーネ」

「よろしくお願いします」


 リーネはそういうとあっというような顔をする。


「そういえば……あなた方のお名前をしっかり窺っていませんでしたね。教えていただけますか?」

「そういえば確かに。僕は久倉ハルート。ハルって呼んで」

「俺は、野ノ米巧だ。タクって呼んでくれ。俺たちは同じ年で18歳だ」

「あら、同じ歳なんですね。同じ歳の知り合いができたのは初めてです」


 嬉しそうに笑う。

 本当によく笑顔が似合う子だとハルートは思う。しかし、それと同時に何かの違和感を抱いていた。


(たダ喜んでいるとは思えない。なンかこう、期待しているみたいな感じが)


 そんなことを考えていると、隣の巧が話し掛けてくる。


(まぁ、そンなことはないよね)


 ハルートは巧と話し始めるのだった。

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