&10 お困りの種は大きくて

「……はぁ。ここまでのことになるとは」


 ニナリンゼは左手を額に当てて、困ったかのような姿勢をとる。


「これは、陛下だけにお伝えするようしないといけませんね。結果としては素晴らしいものですが、事が大きすぎます」

「事とは?」


 ハルートにはその問題の何がいけないのかわからなく聞き返す。それに、彼女は苦笑いで答えるとともに右手の人差し指を立てる。


「まず1つ目として、この世界以外にも世界があったこと。そして、そこにはこの大陸と同じ形の大陸が存在し、人が暮らしているということです。この世界にとってその資源や人材は自国を発展させるためには喉から手が出るほどでしょう。そこら辺の研究者が見つけたものであれば信憑性しんぴょうせいのないうわさとなりましょうが、国の王が見つけたとなれば、一大事。皆がそれを狙って来ることとなり、陛下の身自体も危ぶまれます」


 たくみとハルートはフンフンと頷く。まぁ、一般的な人が考えたら利益のためにそうするだろう。


「そして2つ目。その世界と行き来することができるということです。これは、先程の問題を明確化させる理由となってしまいます。以上から、知る者は少なくしておいた方が良いということになります」

「つまり、僕たちも黙っていないといけないということですか?」

「そうお願いしたいです」


 問題の大きさがどれだけのことかを理解することができた2人。その後の話で帰る際に記憶を消されるのかということについて巧が質問をするが、変に消すよりかは知っていた方が他言しなくて済むとのことだった。よって、こちらの世界での2人の記憶は消えなくて済むのだった。

 アニメで観てきたような世界。感動は計り知れなかった。


「たダ、僕たちはどうやって変えればいいのでしょう?」

「通ってきた穴は小さくなっちゃったしな」

「それについては、大丈夫かと思われます。陛下の治療はもうすぐ終わり、お目覚めになると思います。そうなれば、ネクテージを動かして帰ることができるでしょう」


 帰るためには、今は王女の力が必要であるということ。彼らはもう少し長居する必要がありそうであった。

 話すことを話し終えた双方は、一度ティータイムを挟んだ後、世間話を始める。世間話と言っても、それぞれの世界で最近何があったかを話すだけであったが。今来ている世界の方では、近隣の国のいくつかが戦まで発展しそうな程関係が悪化しているとのことであった。どちらの世界でも、人間の関係とは難しいものなのであろうかとハルートは思ってしまう。

 そんな時、ドアがコンコンと叩かれる。トルヴァがそのドアを開けに行くと、そこには巧とハルートに部屋から出ていくように言ったメイドが立っていた。


「皆様、陛下がお目覚めになりました」

「やっとですね。なに異常はありましたか?」

「いえ、特にそのようなことはありません。治療後に起こる火照りが少しあるだけでございます」

「わかりました、迎えに行きましょうか。……巧殿とハルート殿。申し訳ありませんが、もう少しの間、よろしくお願いいたします」

「わかりました」

「おう!」


 部屋にいたニナリンゼの弟子という人も含め、全員が部屋を移動することになった。メイドを先頭にトルヴァ、巧、ハルート、ニアリンゼ、そして弟子という順番で居た部屋を後にし、向かい始める。しっかり話してはいなかった、特に名前を知らない王女と話をすることは、巧とハルートにとってワクワクするようなことで、早く話してみたい心でいっぱいだった。少しの下心したごころも含めて。

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