ダメかもしれません
「まあ、こんなもんかな…」
一葉が飛び散った人形の内容物などを纏めた袋を見てそう呟く。
「イチヨウ様、入りますよ〜」
ノックもせずに部屋の扉を開けたアルムは、一葉の手に握られた袋を見て硬直する。
「やあ、アルム」
「自首しましょう!」
「うん?」
一葉の肩を掴んで、揺さぶりながら叫ぶアルム。そんなアルムの行動に疑問を隠せず一葉は、間抜けな声を出してしまう。
「いつかイチヨウ様はやると思っていました…。うぅ…ヒイラ様可哀想なお姿に…。せめてお墓だけは…」
「うん。一回待とうか。」
彼女はきっと何か盛大な勘違いをしている。そして、途轍もない暴言を吐かれたような気もするが、それについては後ほどお仕置きをすることにしよう。そう判断した一葉は制止の言葉を口に出す。
だが、混乱の極みに達したアルムにそんな一葉の言葉は届かないようで「ゴルザさんになんと伝えれば…」などと呟いている。
「あ、イチヨウさっきの話の続きなんだけど…」
「ビャッ!?」
ガチャリと扉を開けて、ヒイラが顔を覗かせるとアルムは変な声を上げて、これでもかと目を見開くと…。
「…えっと、どうしたの?ああ…」
泡を吹いて倒れたアルムにヒイラは困惑した表情を浮かべると、一葉に視線を向け、手に持った赤い染みが滲む麻袋を見て納得したように頷く。
「あー、取り敢えず場所を変えようか。」
アルムをベッドに寝かせていた一葉はヒイラの言葉に頷くと、赤い液体が凝固し始めて底部に照りが出てきた麻袋に視線をやり、少し悩んだ後、近くのテーブルの上に置くことにした。
☆
「それで、だ。今後のことなんだけどね。」
ギルドマスターとしてのヒイラの部屋で一葉とヒイラは、対面するようにソファに腰掛けていた。
「イチヨウ、君には私と一緒にここに潜ってもらう。」
テーブルの上に広げられた地図上にある【タンザス】と書かれた都市を指差しながらヒイラは言う。
「さっき言ってたダンジョンってやつですか。」
「そういうこと」
理解が早くて助かる、とヒイラは大きく頷く。
迷宮都市タンザス。ユグナイト王国の端に存在する街であり、世界に5つ程しか確認されていないAランクの迷宮を抱える都市である。
「わかりました。出発はいつにしますか?国の端となると、かなりの日数がかかりますからね。明朝には出発すべきかも…」
「あー、それなんだけどね。君には先に行ってほしい場所があるんだ。」
ヒイラが空中で指を横に振ると、空間に切れ目が入る。
すると、切れ目から数枚の銀貨と錆色をした指輪が机に落ちてきた。
「Aランクの迷宮に入るためにはギルドに登録して、尚且つBランクの冒険者ランクが必要になってるんだよね」
「つまり、冒険者ギルドに登録しBランクになって来いって事ですね。それってかなり大変なんじゃ?」
Aランク迷宮は世界レベルでの遺産であり、それを利用するため一定以上の実力を持った者かどうか見極めるという指標としては世界共通の基準である冒険者ランクというのは最適なのだろう。
「僕のレベル知ってます?24ですよ、24。ひよっこもひよっこでしょうよ」
装備を含めばレベル90程の能力値になりはするのだが、あまりにも目立ちすぎるため、一発でフレイやイグラに情報が入ってしまうだろう。
かと言って、素のステータスでは城の兵士よりも下なのである。そんな状態でBランクを目指すとなれば、何年掛かるかわかったものではない。
「うーん。そうだ!それならアルムを連れて行くといいよ!」
「アルムを…?」
確かにアルムはレベルは120以上あり、また様々なスキルを持っている為、戦力としては申し分ないだろう。
「でもアルムだからなあ…」
「私もそこが1番心配なんだよねえ…」
アルムは確かに優秀なステータスやスキルを保持しているのだが、いかんせんポンコツなのである。
だが、これは全て一葉がℹ︎O時代に設定したものであるため、文句を言うわけにはいかないのだ。
「はあ…己の性癖を殴り飛ばしたい気分ですよ。」
「ははは…でもアルムもきっと頑張ってくれるさ。」
ため息を吐く一葉に、ヒイラは苦笑いを浮かべながらもフォローを入れる。
「それもそうですね。」
一葉がそう言ったと同時に部屋の扉が勢いよく開く。
「失礼し…ピギャアッ!?」
部屋に入ってきたアルムは、ヒイラの姿を見ると同時に奇声を上げてまた倒れてしまった。
一葉はアルムの顔の横でしゃがむと頬をペチペチと叩くが、反応はない。
くるりとヒイラの方を向き、立ち上がると一葉はアルムを指差してこう言った。
「師匠、やっぱりダメかもしれません」
ヒイラは苦笑いを浮かべるだけで、何も言わなかった。今度ばかりはフォローのしようがなかったらしい。
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