再会
「てやっ!」
「ギィッ!」
一葉が振り下ろしたメイスの一撃により、犬頭の魔物_コボルトメイジの頭部がひしゃげて絶命する。
コボルトメイジの死体は直ぐに溶けるように消える。
そして、その場所に最後に残ったのは寺の敷地に敷いてある小石程度の大きさの白い結晶だった。
一葉がそれを拾い上げると、後ろから拍手が聞こえる。
そちらを振り向けば笑顔を浮かべたフレイの姿があった。
「流石イチヨウ君!お見事!」
「いや、武器のおかげですよ」
「まあ、総額白金貨10枚だからね」
イチヨウがそう言うとフレイは自嘲気味に笑った。
白金貨とはお金の単位の事で、一番下から銅貨、鉄貨、銀貨、金貨、白金貨と続いており、それぞれ半分の大きさしかない半貨と、ふた回り大きい増貨がある。
増貨は次の半貨、例えば鉄貨の増貨は銀貨の半貨と同じ額となる。
ちなみに一番小さい額である半銅貨で1円と同じ価値でこれと同じ額になる貨幣は存在していない。
この世界では普通の家族が一月生活するのにかかる費用は多少の贅沢をしても半金貨1枚に届くか届かないか、といったところである。
これだけ聞けば白金貨10枚がどれだけ高価なものなのかがわかるだろう。
「むー、宗賀ばっかりずるい!私も!」
ツインテールを揺らしながら子供のように駄々を捏ねる壱花。
「壱花、わがまま言っちゃダメだよ?」
優しく微笑みながら壱花を宥めるのは、壱花の双子の妹である双葉。
「でも実際その武器は羨ましいね。先生に頼んでみようかな」
爽やかに笑いながらそう言うイケメンは、勇輝。
そして、一葉達が今いる場所はクノウノ迷宮5層。
この場所で彼らはレベルを上げていたのだ。
クノウノ迷宮5層で安全にレベル上げを行うのは基本的にLv.40〜50程度の冒険者がパーティーを組んで討伐に当たるのがこの世界の常識なのだが、一葉達異世界の勇者達の平均レベルはなんとたったの30程度しかなかったのだ。
異世界の勇者達のステータス補正が実に協力だと言うことがわかるだろう。
この世界でも稀にそう言った存在は生まれる。
そう言った人物は英雄と呼ばれ、未来が約束される。
しかし、英雄が生まれる数はかなり少ない。
一葉達を召喚した国である、ユグナイト王国にいる英雄は『真銀騎士団』団長のイグラ、『神鉄騎士団』団長フレイ、そしてそれらのトップに君臨する総団長レイク。
他国でも数人英雄の存在は確認されている。
有名な人物で言うと、隣国のテオ=ドールの『
そして、最近現れたと言われている『暁の魔王』と人類の敵である『黒の魔王』
しかし、他国の英雄の中には出自が不明な者が多いらしい。
もしかすると彼等もまた、一葉達と同じく異世界からやってきた者達なのかもしれないが、確認する術が無いため現状、保留するしか無いのだった。
「ふむ、皆様。そろそろ城へと戻りましょう」
イグラがそう言って手を叩くと、一葉達は地面にへたり込んでしまう。
いくらステータスが高いとはいえ、朝からぶっ通しで戦っていればそうなるだろう。
しかし、そのおかげで一葉達のレベルはグングンと上がっていた。
☆
少し休憩した一葉達が城に帰り着くと、城内はかなり騒がしかった。
「どうした!何があった!」
「あっ!団長!やつがやってきたんです!」
「やつ?何がきたんだ?」
「『暁の魔王』です」
イグラが1人の兵士を捕まえると、兵士が何が起こったのかを教えてくれた。
一葉は暁の魔王という単語に反応すると、その兵士に詰め寄った。
「どこです?」
「ゆ、勇者様?」
「どこに現れたんですか!」
「み、南の砦前です!しかし、勇者様方は待機するようにと陛下から_」
一葉はそれだけ聞くと一目散に駆け出した。
脳裏に浮かぶのは最後の言葉。
『君も私の前から居なくなるんだね』
もう会えないと思っていた。
勇者の、しかも迷宮でレベルを上げたステータスで一葉は駆け続けた。
そして、馬で5時間はかかるであろう、道を僅か1時間足らずで走りきった一葉の目に映ったのは1人の男性と1人の女性だった。
男性は一葉達の先生である伊兎雄二。
2人の周囲には激しい戦闘を物語るかのように、焦土と化し、ヒビが入った大地や、夥しい量の死体、そして肉が焼けるような匂いと血の匂いが充満していた。
「おい!宗賀!ここで何してる!早く城に帰れ!」
雄二は、一葉に気がつくとそう叫ぶ。
しかし、一葉の耳にその言葉は届かなかった。
一葉はもう1人、女性を見て固まっていた。
おっとりとした黄色の
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