決闘

「それじゃ、ルールの確認ね。相手の殺傷は禁止。そして、僕は武器は使用しない事、そして_」

「勝っても負けても俺に武具を買い与える事、それを忘れないでくださいね」

「あははっ、わかってるよ。それにしても、前王もレイクさんも酷いよね〜。イチヨウ君だけボロを渡すなんて!」


 そう、一葉が勝負を受ける条件にしたのは『武具の支給』である。

 今後、一葉が生み出すスキルには武器や防具の性能が関わってくるものもある為、如何どうしても必須だったのだ。


「それじゃ、始めよっか!」

「ええ、行きますよ【斬飛・凍式】」


 一葉の振るった剣の先から水色の斬撃が飛ぶ。

 フレイはそれを上に飛んで回避するが、斬撃はフレイの真下の地面に直撃し、其処だけ凍らせる。

 ギョッとしたフレイは、瞬時に空中で格闘スキル【空舞くうぶ】を発動、空中を蹴って背後に跳ぶ。


「いや〜、話に聞いてはいたけど面白いね!」

「まだまだ行きますよ【諸刃の砦の影】」


 全身から血を流し、加速する一葉。

 迷宮でレベル上げを行った一葉の素早さは以前の比ではなかった。

 光すら置き去りにして、一葉は高速移動し、無防備なフレイにスキルを放つ。


「終わりですね【起死回生】!」

「甘いなあ【神鉄】」


 硬質な音が響き、一葉の剣は中程から折れてしまう。

 フレイはそんな一葉の肩に手を置くと、悪戯に成功した子供のような笑顔を浮かべる。


「…参りましたよ。あなたの勝ちです」

「やったね!どう?強いでしょ?」

「ええ、ところで最後のアレはなんですか?」


 一葉がそう尋ねると、フレイは少し考えるような素振りを見せた後、「ま、イチヨウ君ならいっか!」と笑う。


「さっきのは僕の固有スキルだよ。絶対的な防御力を持つ守りのスキルさ」


 自慢気にしているフレイの前で一葉は、何となく予想していた事が事実だった驚きと同時に、自分の中での疑問が解消されるのがわかった。

 多分…というか確実に【スキルクリエイト】は固有スキルなのだろう。

 それも一葉のみではなく、ℹ︎Oプレイヤーの固有スキル。

 そう思える根拠、それはステータスだ。

 レベル1の時のステータスとSP、それは記憶が正しければ、ℹ︎Oの…ゲームスタート時のキャラクターのステータスと全く同じだった。

 もしかしたらℹ︎Oプレイヤーは一葉だけなのかもしれない。

 しかし、一葉は信じたかった。

 この世界に、自分の他にℹ︎Oプレイヤーがヒイラがいるはずだ、と。

 そして、一葉は決意する。

 『暁の魔王』_ヒイラ、かもしれない人物に会おう、そう決めたのだ。


(でも、その為には力が必要だ。もっと強い力が…)


  ☆


 1時間後、一葉は玉座の間にやってきていた。

 そこに来ていたのは、クラスメイト36人の内7人、一葉も含めて8人しかいなかった。

 来ていたのは、志城勇輝、中島壱花、中島双葉の一葉のパーティーメンバーと、野田優一、志波しば恵里香、鈴原すず潮樹しおう鋼真こうまだった。


「なんだ、これだけしか来てないのか」


 優一は、剃り上げたその頭を触りながらそう言う。


「そう言うな、仕方のないことだ」


 落ち着きはらった声で髪を掻き上げる鋼真。


「でも、仕方ないよね…うぅ…私も怖くなってきちゃった…」

「大丈夫や!スズの事は私が守っちゃる!」


 自信がなさそうにボソボソ喋る紗に抱き着きながらおっさんのような笑顔を浮かべる恵里香。


「さて、これで全員か?」


 気怠げな声が玉座から聞こえてくる。

 そちらを見れば、最早だらしなく座っているどころか、寝転がっていると言っても過言ではないくらい、玉座に寄っかかっている雄二の姿があった。

 こんなのが国王で大丈夫なのか不安になる一葉達であった。


  ☆


 その後、軽い説明を受けた一葉はフレイに連れられて、城下町の一軒の鍛冶屋にやって来ていた。

 鍛冶屋の中に入ると、外とは打って変わったような熱気に一葉は思わず顔をガードしてしまう。


「ねー!親方さーん!いるんでしょー!」


 何か金属を打つ音に負けないようにフレイが声を張り上げると、ピタリと音が止み、奥からのっそりと髭を生やしたガタイのいい男性が現れる。


「なんだ、フレイかどうした?ん?そこの兄ちゃんは…?」

「ああ、親方。紹介するね、彼はソウガ=イチヨウ。異世界の勇者様だよ!」

「ほほーん、こんな子供が勇者様ねえ…ま、俺としては贔屓ひいきにしてくれるならどっちでもいいがね」


 そう言って親方は、カウンターの下から剣やナイフ、手斧などの武器が入った木箱を取り出す。


「おい、勇者様。どんな武器がいい?この中から種類だけでも選らんどけ」


 

 一葉は目の前の箱の中にある武器の中からナイフとメイスを取り出す。

 ゲーム時代によく使用していた2つの武器種、それがナイフとメイスだった。

 ぶっちゃけ他の武器種に比べて使い難く、スキルも使い勝手が微妙だったためあまり使用しているプレイヤーは居なかった。

 しかし、一葉は2つの武器を使い続けた。

 一葉からしてみれば武器の扱い易さなど二の次で、何より重要なのはスキルだった。


「親方さん。武器はこの2つでお願いします」

「おっ、ナイフとメイスか…変わった武器を選ぶんだな」

「そうなんですか?」

「ああ、ナイフもメイスもスキルが微妙だからな。あまり使われないな」


 親方は、木箱をカウンター下に直すと幾つかの金属片をポケットから取り出す。


「次は材質だな。右から、銅、鉄、銀、鋼、真銀、そして…神鉄だ」

「じゃあ神鉄で」


 即答だった。

 当然金を出すと言ったフレイは青ざめて「真銀なんかもいいんじゃないかな?かっこいいよね?ね?」と必死に説得している。


「え、でもフレイさん何でもいいんですよね?」

「うっ…まあ、払えなくも無いけどさ…うぅ…今月は飲みに行けないや…ハンナちゃーん!ごめんねー!」


 お気に入りの飲み屋の方向を向いて、そこの看板娘に向かって届かぬ謝罪をするフレイ。

 そんなフレイに追い打ちを掛けるように一葉は_


「あっ、ナイフは投げる用なので50本くらいお願いします」

「本当に勘弁して!?」


 結局、フレイのガチ泣きで良心が痛んだ一葉は神鉄ではなく鋼製の投げナイフにしたそうだが、結局財布に大ダメージを受けたフレイがしばらくの間、哀愁を漂わせながら色町周辺を歩いている姿が目撃されるようになった。

 その話を聞いたイグラの眉間のシワが更に深くなったのは、言うまでも無いだろう。

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