7, 薬

 その夜も、フェレスは夕食に自分を招いた。


「母親の病気はなんなんだ?」

「え?」

 と、訊かれても。病名なんて、分からない。

「え……っと」

 首をかしげる。

「わかんない……。でも先生は身体の中に悪いものがあるんだって言ってたぞ」

「……腹か?」

「胸かな。時々すごい咳き込むんだ」

「……肺か」

「はい?」

「いや。それを治すための薬は飲んでるのか?」

「薬は……」

 熱いスープを口に運んで、言う。

「薬は買えないんだ」

「何故」

「……薬は高いから」

「……俺が買って贈ろうか」

「いい」

 すぐに断った。

「いいよ、フェレス。そんなことは、フェレスには頼めない。それに、先生が言うには完全に治す薬はないんだそうだ」

 微笑む。

「ありがとうフェレス」

「……いや」


 嬉しかった。フェレスがそう言ってくれたこと。でも、これ以上フェレスに甘えるのは、どうしても気が引けた。


「じゃあ、俺がその薬を作る」

「え?」

「ここで学んでるのは言語学だが、都の学舎にも行って薬学を学ぶつもりなんだ」

「へぇ。すごいなフェレス」

「俺が薬を作って、それからスザンナの母親に飲ませる。これならいいか?」

「……でも」

「勘違いするな。贈るわけじゃない。実験させてもらうだけだ。これなら、いいだろう?」

 そんな素っ頓狂な提案に、笑いが込みあげた。

「あははっ……フェレス、お前、私の母親実験台にして薬を試そうって言うのか?」

「あぁ」

「いいよっ……。いい、いい。その話、乗った」

「待っててくれ」

 フェレスが私の顔をじっと見た。彼が本当にそう思ってくれているのがわかった。

「いつか、薬を持ってお前の故郷に行くから」

「うん。待ってるよ」

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