6, 地図
「え?」
帰ろうとして、聞き返す。
「ここに泊まっていけばいい。部屋なら用意させる」
「……あ、いや、いいよ」
断った。
「宿を取ったのか?」
「ううん。でも大丈夫」
「今から探すのか? 遅いだろう」
「野宿するから。いいよ。そんなにお金がないんだ」
「だったらここに泊まればいいじゃないか」
首を振る。
「それじゃ修行にならないから」
「……そうか」
「ありがとうフェレス。お前、優しいな」
「明日どこかへ発つのか?」
「うーん。考え中だよ。寝ながら考える」
「もし」
「うん?」
「もし時間があるなら明日もう一度学舎へきたらいい」
「……塀から?」
「正面から。話は付けておくから」
「なんで?」
「見せたいものがある」
「そいつは楽しみだなっ」
そして私はその大きなお屋敷を後にした。
翌日、学舎へ行くとフェレスが門の所で待っていた。
「着て」
上着を手渡される。
「なんだこれ?」
「もう少しましな格好をしないと、目を引くから。それじゃ」
「……これじゃ、ダメなのか?」
自分の服を指差す。
「ダメなわけじゃないけど、目立つ」
「じゃあこれでいいよ」
「……じゃあせめて、剣。剣だけは預けて」
「あぁ、ここ武装してたら入れないんだ?」
「そんなところだ」
フェレスの後について歩く。フェレスの綺麗な色の髪を見つめて歩く。さらさらだ。ふふっと笑った。
「で? 見せたい物ってなに?」
「これ」
とある部屋に着いてフェレスは言った。
その部屋には中央に見たこともない大きな球体が置かれてあって、壁中ぎっしりと大きな紙がいくつも硝子のケースの中に展示されていた。そして部屋の一番奥に一番大きな紙が貼ってあった。
「なにこれ」
「今の所、最も精密な地図だよ」
「へぇー……!」
地図。確かに。その紙には何かの図形が書いてあった。
「……これ、私たちの国か?」
「そう」
指をさす。
「これが、アルブ」
「……アルブ。結構大きいんだな」
「そうだな。それからここが、サリーナ・マハリン」
「うんうん」
「お前の家は?」
フェレスはくるりとこっちを見て問う。
「えぇ……?」
じっと地図を見る。全く想像がつかない。
「ピティは? どこ?」
「ここ。ここがアルブの町」
「えーっと。アルブから、西に行って……」
ぶつぶつ頭の中で必死に道を思い描く。
「ここらへん?」
指で刺してみる。
「……ずいぶん山の方なんだな。北だ」
「あ、うん。私の村はすごくちっさいからさ。殆んど山のふもとだよ」
「……へぇ。名前は?」
「バルガン」
思い出す。
故郷の風を思い出す。口元が緩む。じいさんは元気でいるだろうか。母親は?
「好きなんだな」
「え?」
「その、バルガンという村を」
「あ、うん。すごくいい所だと自分では思ってる」
「……いつか」
「ん?」
「いつか行ってみたい」
私の顔はほころんだ。
「もちろん。いつでも来てくれ。目玉焼き、作ってやるぞ」
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