3, 偶然

 旅を続けた。


 旅をするということは想像していたよりも随分きついことだった。

 この国は物騒で、野盗やら、ゴロツキやらがたくさんうろついていた。多分、職を失ったやつらが集まってそんなことをしているんだと、じいさんが言っていた。それは若き国王の政治が悪いせいだ、と。


「よっこいしょ」

 拾った新聞を手に取り、ランプに火を付けて座りこんだ。今日は野宿になる。

 この頃の新聞なんてのは、一つも大したことなかった。印刷機の性能が悪いし、誤字脱字なんてのは日常茶飯事。絵も入っていない。

「…………お」

 目に留まる記事がひとつ。思わずランプを新聞に近づける。

「やっぱり! フェレスだ!」

 記事によると、フェレスは明日からこの町で暫らく学舎に入って言語学を学ぶらしかった。

「この町?」

 すごい偶然だ。心が躍る。懐かしいな。フェレス。ちっとも笑わない変な貴族。旅を始めてから、初めて出会った人間だった。

 自分のことは憶えているだろうか。会えるかな。会いたいな。

 それはお礼が欲しいからとかそんなんではなく、知り合いに会いたい、ただそれだけだった。一人で旅を続けることはすなわち、話相手がいない。そのことにしばしば苦しめられる。喋れないということは、結構ストレスなんだ。


「学舎か。明日行ってみようかな」

 独り言で微笑んで、その日はうきうきした気分で床についたものだった。

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