第1話 9


「ただいま」

 夕方になって、オレはやっと帰ってきた。

「え、エンジ、その髪……」

 広々とした玄関で出迎えてくれた桃子は、桃子が島に来た初日にオレが彼女にした反応と同じ反応をしている。

「似合うだろ」

 鏡花ちゃんの家は美容室を経営していて、オレは放課後相談を持ちかけると、彼女は快諾してくれた。

 ごわごわにならないように丁寧に染めてくれた髪は、落ち着いた深い赤色。

 ――オレと同じ名。オレの色。

「オレもケジメをつけようと思ってね」

 まっすぐに桃子を見つめる。桃子も逸らしたりなんかしない。今まで、こうして互いの視線を正面切って交わしたことなんてなかった気がした。

「あんたの覚悟はわかった。だから、桃之助も命令だからじゃなくて、オレの意志でここに居ることにする。

 ――これでいいか、桃子」

 大切に箱に入れられて、傷つかないように丁寧に扱われていた、オレが煩わしいと思っていたお姫様はもういないのだ。

 桃子の鬼藤に立ち向かう姿を見ていて、オレも桃之助を恐れて思考停止するのを止めようと決意した。

「おかえり、エンジ」

 桃子はオレの出した答えに、今まで見たこともない、とびっきりの笑顔をくれた。




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