第23話 交わした約束

「それでは、僕たちは戻ります。今まで妻がお世話になりました」


「また来るね。お父さん、お母さん」


リュードが戻ってきたことにより、レイミは実家を離れ、二人で暮らしているアレクサンドル街に建てた2階建ての一軒家へと戻る。


今までリュードが試合に出て得たファイトマネーで建てた二人の家。

いや、二人だけではない。もうすぐ子供が産まれて三人になるのだ。


「ただいま、っと」


レイミの身体を支え中へと入るリュード。

レイミはリビングのソファーに腰掛ける。


「・・・ありがとう」


「辛かったらすぐに言ってな。家のことは俺がやるから」


「ありがとねリュード。大丈夫よ、私も出来ることは自分でやるから」


理想の夫婦らしくお互い持ちつ持たれつでやって行こうという二人。


・・・・・リュードもリビングの食卓の椅子に腰を掛け、しばしの沈黙が流れる。


「・・・・・あのさ、俺がアトラス大陸で試合してる時ってテレビ中継してたと思うけどさ」


「うん、お母さんと観てたよ」


「やっぱり観ててくれたんだ・・・。あの後も、軽い練習試合は何回もやってたんだよ」


「そうなんだ。それでどうだったの?」


レイミは結果が気になるらしく、不安と緊張を織り交ぜた表情をしている。


「結果は・・・・・全部俺の勝ちだよ」


「そうなんだ・・・うん、そうだよね」


レイミはうっすらと笑みを浮かべつつも、どこか複雑そうな顔をしている。

レイミのそんな表情をみてリュードは、


「負けて欲しかったの?」


リュードはレイミに自分が負けることを望んでいるのかを聞いた。

しかしまあ、なんとも不思議なことを聞くリュードだ。


レイミの返事は・・?


「リュード・・・勘違いしないでね。私はリュードに『あなたの身体が心配だから、もう試合に出るのは辞めて』ってお願いしたけど、『早く試合に負けて引退して』なんて一言も言ってないわよ。・・そんなこと、これっぽっちも思ってないわ」


「そっか・・でも、約束は約束だよ。もし・・次、俺が試合で負けた時は・・・それが練習試合だろうと、俺は引退するよ」


「・・・・・」


レイミは無言で小さく頷いた。


アトラス大陸で何度も練習試合をこなしながらも、まだ去年のスターズ戦以来負けていないリュード。だがそれもそのはず。

リュードはレイミとアトラス大陸に修行に行く直前、アトラス大陸行きの船の前で約束を交わしていたのだった。


~~~その時の回想~~~


「リュード、お願いがあるの。もう武術大会に出るのは辞めてほしいの」


「どうしたんだ急に?」


「私達が旅をして戦ってた時は、戦わないと取り返しがつかない大切なものを失くすから、私達は戦ったけど、今は違うんだよ?私、リュードにこれ以上怪我して欲しくない」


「レイミ・・・」


「リュード、一緒に家に帰ろう?」


「レイミ・・・・・分かった。負けるまでだ。もし次負けた時は、ごちゃごちゃ言わずに、言い訳しないで引退するよ」


「本当に?」


「ああ」


~~~回想(終)~~~


あの時の約束を思い出す二人。


「レイミ。俺は勝ち続ける限り闘うよ。仲間のため、応援してくれるファンのため、そして、養っていく『家族(レイミ)』のため。それが・・・『自分のため』なんだ」


「リュード・・・分かったわ。でも、無理だけは絶対にしないでね?」


「・・・うん」


リュードはレイミの想いを胸に頷く。

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