伝えられない想い

「ねぇねぇ、好きな人はいないの?」


 机の上でお弁当を広げ、食べながら友人と話すつかの間の休憩時間――昼休み。恵美は仲の良い友達と二人でお昼ご飯を食べていた。友人の突然の言葉に思わず恵美の箸を動かす手が止まる。


 女子高校生である二人は恋愛の一つや二つ、してもおかしくない歳である。二人だけでなくクラス内の女子全体で、こういった恋愛トークが流行っている。彼氏はどうだの、クラスの誰が好きだの、校内で彼氏を作るなら誰がいいだの、そういった類の話をしてはキャーキャー盛り上がるのである。


「あ、箸が止まってるよ? さては好きな人がいるな? 誰々? このクラス? というかこの学校の人?」


 恵美の反応に友人がすぐさま食いついてきた。好きな人が誰でどこにいるどんな人なのか。それが気になるのはきっと、いつの女子も変わらない。友人のように矢継ぎ早に問い詰める人は稀だろうが。


「それを知って、どうするの?」

「そりゃー会って挨拶するでしょ! もしこのクラスの人なら出来る限り協力したいし」

「……本当は?」

「ただの好奇心!」

「うん、知ってた」


 素っ気ない恵美とテンションの高い友人。この二人、性格やタイプは真逆なのに何故か仲がいい。恵美がクールな態度で淡々と言葉を返せば、友人は元気よく答えて本心をあっさりと口にする。そんなやり取りは、二人にとってはいつものこと。でも、一つ残念なことがある。


「当ててみる? 絶対に無理だと思うけど」


 恵美が友人を煽れば、友人はあっさりそれに乗っかった。いくつかクラスの男子の名を挙げるが、恵美はそれを拒絶。友人が困ったように頭を抱える。恵美には好きな人が当てられない自信があった。


 好きな人はいる。でもその正体をだと思い込んでる間は当てられない。そしてそれこそが、恵美が正体を口にせずに誤魔化す理由でもある。


 普通、好きな人と言えば多くの人が異性を思い浮かべるだろう。だが恵美は違った。恵美が恋愛対象として見てしまうのは同性なのだ。そして皮肉にも、恵美の思う好きな人はすぐ近くにいる。すぐ近くにいるのに、思いを告げることは叶わない。


「わかんなーい」

「当てられたら、何でも言うこと聞いてあげる」

「ホントに? よし、頑張るぞー」


 友人の言動を微笑みながら見守る恵美。その眼差しに友愛以外の感情が含まれていることを、恵美以外は知らない。好きな人は今日も、恵美の気持ちに気付かないまま……。

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