9-2 赤い花の笠


 9月になると神社のお祭りが始まり、神様に捧げるための踊りが行われます。

これを「奉納踊り」と言いますが、曲目は盆踊りの時と同じです。つまり夏が過ぎても、まだまだ踊りを楽しむことができるのです。


 東京の盆踊りシーズンは、6月の赤坂日枝神社の山王祭りからはじまり、10月の宝田恵比寿神社のべったら祭りまでと言われています。他にも前後にイベントはありますが、一つの目安として定着しているようです。


 そんな日々を楽しみつつ、私たちは秋の行事に「猪突猛進」しております。

「それを言うなら、邁進まいしんだろ」

 いつもの夏音からのツッコミが入りましたが、真っすぐ進む意味では間違ってはいないかと!(イメージが違うけど。)


 さてさて、文化祭の曲目選びですが、今回は男女分かれて1曲目と3曲目を男子、2曲目と4曲目を女子が担当することになりました。

 1曲目が渋いので、私は2曲目に『花笠音頭』*19を提案しました。

 そう、華やかな花笠を持って踊る山形県の民謡です。軽快で楽しくて、そしてきっとみんなも聴いたことのある親しみを持てる曲だからです。客席からも自然に手拍子をしてもらえるのじゃないかしら。


「めでためでーたーの 若松様よ 枝も(チョイチョイ)

 栄えて葉も茂る(ハァ ヤッショーマカショ)」シャンシャンシャン


 この独特の合いの手「ヤッショーマカショ」は一説によると山形県の徳良湖とくらこという人工の湖を作る際、調子合わせに歌われた作業歌が元になっているそうです。

「やってみよう、まかせておけ」という意味らしいですよ。響きがカワイイ。威勢よく全員で掛け声をかけましょう。


 中に赤い襦袢を着て(「ナガジュバーン」とミンゴセンセがフランス風に発音してるけど、そこは流しておいてっと。)浴衣は片袖を出して、赤い紐でたすき掛けにします。裾は短く着てちらりと中の色が見えるように着付けます。そう、農作業をしている時のスタイルという感じなのです。

 頭にも手拭を被ります。これはあねさん被りと呼ばれております。

 こ、これは、可憐な女子がすると、ますますポイントが上がる気がします。私ですか? えっと……、聞かないでー。


 振付けはほぼ基本通りにして、間奏の部分をトリコさんにお願いに行ったら、「女子たちで考えてごらん。アドバイスはするから」と言われて、チャレンジすることになりました。やほほーい。



 花笠音頭はタイトルの通り、花笠を使って踊るのですが、この花笠の扱いが難しいです。笠をくるくる回す時、落としてしまいそうになります。


 前奏と間奏のメロディが可愛らしいので、間奏の部分を長尺にして吹奏楽部のアレンジに任せることにしました。その間、花笠を上下したり、回したりするよう踊りの振りも新しく考えたので、いっぱい練習しなくては! だって、下手するとどじょうすくいに見えてしまうのですもの。


 吹奏楽っていっぱい楽器があるんだなぁ。休憩時間に部員さんたちに色々と見せてもらって、楽器の名前と音色を教えてもらいました。

 金管楽器という金色ピカピカの子たちは、小さい順からコルネット・トランペット・トロンボーン・ホルン・ユーフォニウム・チューバという名だそうです。私なんて「ラッパ」としか呼んでなかったので種類の多さにビックリです。チューバッカは聴いたことがあると思ってたけど、あれは宇宙の話でした。


 金管の男子たちに対し、木管楽器さんたちは女子率高しです。

 フルート・クラリネット・サックス・オーボエ。同じ名前でもアルトとかソプラノとか種類があるそうです。フルート吹いてるのは可愛い小鳥さんたちです。きゅん。一緒に踊れるのってなんて贅沢なんでしょう!



 そして私たちは予算の関係もあって、菅笠すげがさに自分たちで花をつけることにしました。紅花を模した赤いお花を折って、笠に取り付けていくのです。小学校のお楽しみ会に飾った薄い紙のお花を思い出しながらね。(作り方は同じ!)


 吹奏楽部、合唱部、そして和太鼓部の女子たちにも被ってもらいたくて、その分も放課後教室で作ってまぁーす。

 こういうの作りながら女子たちは話にも花を咲かせるのです。誰がカッコイイとか、最近誰と誰がつきあいはじめたとか、ね!


 一番人気は相変わらずミンゴセンセですが、夏音の人気も負けていません。

 最近部長になってリーダーシップを取るようになり、ますますカッコよくなったと評判です。そうでしょう、そうでしょうとも!

「紗雪と夏音って、実際どおなの?」って、聞かれてもねー。

「一生このままな気がするの」と言いながら、郷里での夜のことが一瞬脳裏に浮かんで、頬が熱くなったことは秘密です。


「お腹すいたよー。お花がだんだん苺に見えてきたー」

「それを言うなら苺よりさくらんぼでしょ? 山形なんだから」

「いやいや、大きさ的には、苺大福。ああ、もう帰りに食べてこー!」

「やっぱり色気より食い気か、紗雪は。だめだこりゃ」


 もう脳内には「こころ屋」さんがぽっかりとお月さまのように浮かんでいるのです。




<民謡ひとこと講座>

*19「花笠音頭」山形県民謡

   毎年8月の「花笠まつり」で踊られる。東京でも盆踊りの人気曲。



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