9 文化祭コラボレーション
9-1 山から吹く音
2学期がはじまり、受験生である3年生に代わって、2年生が部活の中心になって活動していくことになる。
今日から俺は「ハッピー民踊部」の部長を務めることとなった。
そして書記は同学年の
学校では秋の文化祭の打ち合わせが始まった。
民踊部は吹奏楽部と合唱部と合同発表をすることになったんだ。これはなかなか面白い企画だ。今年できたばかりの和太鼓部も一緒にやりたいと手を挙げているらしい。
今日は代表同士が集まって、演目について話し合った。
演奏・合唱してもらうのは、踊りを考慮して民謡に決まった。そして初めての試みだから、マニアックな曲ではなく、みんなが聴いたことのあるものにしようということになったんだ。ただしアレンジは自由にやってみようと。
4曲やることになり、候補曲が幾つか上がった。
東京音頭、炭坑節、ソーラン節。まあ、この辺りは超有名曲だろうな。
ただ、曲名は知らずともメロディや歌詞に聞き覚えのあるものが多いのも民謡の特徴だ。
俺は真っ先に「会津磐梯山」*18を推した。
ああ、いいね!とすぐに賛成の声が上がった。一節歌ってみるとみんな知っている。まずお互いに譜面を起こしたり、振付のアレンジを考えてから、一度セッションをしてみることになった。
磐梯山には「天に掛かる岩の
「
民踊部に戻ってみんなに伝えると、部員たちは
「え? あいつ番台さーん?って聞くやつ?」
「なになに、風呂屋の話? 番台バンザイ!」
と訳判らぬことを聞き返してきたよ。まったく、みんな紗雪に感化されてないか? ま、俺たちは元気に行こうか、どこまでも洒落てな。
文化祭では、基本の民謡の振りを生かしつつ、新しい振りを付けることがある。
顧問のミンゴに振付を頼もうとしたら、「夏音、お前やってみろ」と言われた。これはかなり嬉しい。基本を踏襲しつつ、自分たちの新しい解釈も入れてみたいと思う。
俺は客席側からの舞台を見た時の並びを思い描いてみた。
イメージはそびえる山々なんだ。
山から声が降って来るみたいに、奥行きと高さのあるフォーメーションにして、音が客席に降り注ぐ感じにしないか。
吹奏楽のトランペット隊が立ち上がる。合唱部は吹奏楽部員の間に入ってあちこちから中央に向かって歌い、やまびこが合わさるような線を作る。
合唱部の部長はテノール張りの声の持ち主なので、最初独唱から入ってもいいかもしれないな。副部長のソプラノもオクターブ違いで入ったらめっちゃカッコいいな。
この曲はそんなダイナミックな音源を大事にして、民踊部は足音をあまり立てずに静かめに踊るのはどうだろう。
着物は黒に渋い帯。目立つ色は首にかけた赤い手拭いだけ。ただただ山道を下るように足を運ぶ。
*
「ねーねー、おはらしょうすけさんって、誰? 歴史上の人物?」
紗雪が俺の袖を引っ張りながら尋ねた。
小原庄助、というのは、「会津磐梯山」の
「小原庄助さん、朝寝、朝酒、朝湯がすき」な、のほほんとした人物。
会津の商人であったとか、武士であったとか諸説ある。実際には朝の酒がすきなのではなく、朝から晩まで寝ている時以外は、年がら年中酒を呑んでいた酔っ払い伝説なんだな。「それで身上つぶした」と唄われている。
そういや、小原庄助は、紗雪の父ちゃん(たぬきの方の)みたいだな。
のんきで、にくめなくて、あったかくて、ほんと困ったたぬきだった。それでいて時折、妙に含蓄のあることをぽつりと言ったりする。
ここの部分は、そんな父ちゃんを偲んで、ラップ調にコミカルに踊るのもいいかもしれないな。
<民謡ひとこと講座>
*18「会津磐梯山」福島県会津の民謡
会津民謡「玄如節」からの転用。エンヤー、という独特の掛け声からはじまる。
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