第14話 「DMATがやって来る」



「サンタが街にやってくる」ではありません。災害訓練のお話です。


 DMATディーマット: Disaster Medical Assistance Team 災害派遣医療チーム、とは、主に大規模災害時に、消防と連携して活動する医療チームのことです。急性期(災害発生後48時間以内)に現場に展開し、応急処置、搬送、トリアージ(注1)、被災地内の病院の支援などを行います。

 各自治体では、毎年、災害拠点病院で、集団災害緊急医療救護訓練を行っています。大地震などが起きた場合を想定して、DMATとともに、応急処置やトリアージが円滑に行われるよう訓練します。一般の方も負傷者役で参加して下さいますし、地方のニュースとしてTVで放送されることもあります。

 自治体の指定している災害拠点病院では、年に一回、順番に行われています。


 今年は、私の勤務先の病院になりました。


 一応、東日本大震災ではJMATジェイマット(注2)に参加し、熊本地震でもDMATを派遣した病院です。トリアージのやり方などは知っています……が……今回、やってくるのは「よその病院のDMAT」と、消防と学生ボランティア(負傷者役)です。ざっくり説明を受けたものの、「ど、どうするの?」と、みな不安に思っていました。

 院長より、一言。


「だいたいの手順は、You Tubeで勉強して」


 You Tubeですか……。


 確かに、過去の訓練の様子を記録し、公開している動画が沢山あります。一般市民参加のもの、看護学校で行われたもの、など。一般の方が参加している訓練風景は、どこかのんびりとしていて、なごみます。

「ふんふん、なるほど」と、みんなで視聴し、イメージトレーニングに励みます(注3)。


 某国立病院の災害訓練動画を拝見したときです。私たちの表情が凍りました。


 ――映画『ST〇R WARS』を彷彿ほうふつとさせる字幕が出たかと思うと、場面は手術室へ。手術中に緊急地震速報が出たという想定です。画面(カメラ)が揺れます、電気が消えます。手術を続行するかどうか決めないといけません……。

 緊迫した、カッコイイBGMが流れています。

 レスキュー隊が到着し、病院前に停めてある自動車に駆け寄ります。下敷きにされている人(人形です)を救うため、エアジャッキで持ち上げます(見物人がいっぱい)。

 無事に救急車に搬送を済ませると、今度は運転席に取り残された人を救出すべく……スプレッターで、ドアを破壊していますよ……。屋根を叩き、切断し、ウインチでダッシュボードをけん引し、運転者(人形)を車から救出しました(おおーっと歓声があがりました)。

 一般のボランティアの方が、負傷者役で登場。トリアージが始まります。「十五秒でやって!」指示が飛びます。骨折している方は、血糊がべったり……「ううーん、痛いよう。助けて~」と、迫真の演技です。

 病棟ではお産が始まっています。看護師さんが妊婦さんを励ましています。あ、無事に産まれました(赤ちゃんは人形です)。

 外から、続々と患者さまが運ばれてきました。野戦病院のようです。緊急手術が必要な患者さまは、道路標識の折れたポールが腹部に突き刺さっています。

 災害範囲が広域すぎて、重傷者を受け入れることが出来ません。空港へ搬送し、他地域の応援を要請します――。


 ちょっと待って! このレベルでやるの? ヘリ飛ばすの? 自動車こわすのっ? ――観ていた一同が、ざわつきました。

 院長は、あっさりと

「あ、車は壊しません。ヘリコプターも飛ばしません。でも、ヘリポートまでは運んでね」

 地震だと、エレベーターが止まる設定です。ヘリポートのある屋上まで、患者さまを担いで階段を登るわけですね……。


 不安でいっぱいな一同。かくして、災害訓練のための訓練を、毎日せっせと行うことになりました。が、頑張ります(涙)。





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(注1)トリアージ

 負傷者の状態に応じて、緊急度を別けることを言います。自分で歩ける軽傷者には緑、緊急性はないが自力で動けない(骨折など)方には黄色、呼吸状態が悪いなど緊急性のある方には赤、死亡確認された方には黒色のタグをつけさせてもらいます。外傷の場合、状態は刻々と変化しますので(緑だった人、黄色の人が赤になる)、注意が必要です。

 ちなみに、死体役の方は、霊安室に安置されるまでの間、静かに死んだふりをしています。


(注2)JMAT

 日本医師会災害医療チームJapan Medical Association Team、と言います。災害発生から72時間以上が経過し、急性期の患者数が落ち着いてきたころ、撤退を始めるDMATと交代する形で被災地に入り、地域医療体制が整うまで支援を行います。

 

(注3)イメージトレーニングに励む

 訓練動画だけでなく、東日本大震災時の石巻赤十字病院の初動記録、熊本地震の際の熊本赤十字病院、済生会熊本病院の初動記録も、You Tubeで観ることが出来ます。ご興味のある方は、ぜひ視聴なさってください。検証のために記録されたものだと思いますが、凄いです。



 訓練自体は、つつがなく終了しました。いろいろと、反省点はありましたが……。

 翌日、参加したほぼ全員が、筋肉痛になりました orz

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