やめて!注目する気でしょう!

ちびまるフォイ

見ているのはそこじゃない

なぜか俺はめちゃくちゃ狙われる。


「はい、タッチー! お前が次の鬼な!」


「さっきから俺しか狙ってないよね!?

 30人規模で鬼ごっこやってるのに、俺だけ鬼のループっておかしくない!?」


「偶然だよ、偶然」


子供のときからそれははじまっていた。

幼い時はまだ気にもしていなかったが、いくら歳を重ねても衰えることはなく、


「じゃあこの問題を――山田」

「はい」


「こっちの問題は――山田」

「は、はい」


「この問題は……山田だな」

「え」


「次のページの問題も……山田」


「ちょ、ちょっと待ってください! これはわかりません!

 別の人を当ててください!」


「しょうがないな……じゃあ山田」


「話聞いてました!?」


授業ではなぜか俺ばかり集中砲火される。

理由を考えてもまったくわからない。


社会人になってからもやたら目に留められやすい。


「おーーい、山田。コピーとってきてくれ」

「はい」


「山田、この仕事やってる?」

「あ、はい。やってます」


「山田さん。あの仕事フォローお願いできますか?」

「は、はい……」


「山田くーーん、今日のみ行かないかーー」

「今日はちょっと……」


「山田よぉ、今日飲み行こうぜ」

「仕事が残ってて……」


「山ちゃん、飲みいこーぜー」


「 仕 事 が あ る の で す !!!!」



「んだよ……もっと優しく断ればいいのにさ……」


と、まあこんな調子で社会人になってからも注目されすぎる。

この悪しき体質をひきずったまま老後を迎えるとどうなるのか。


「はい、おじいちゃん。具合大丈夫ですかーー?」


「この老人ホームは設備がいいからねぇ、元気いっぱいだよぉ」


「おじいちゃん、おむつ変えましょうか」

「え、いや大丈夫じゃよ……?」


「おじいちゃん、たまには外に出ませんか?」

「わしは本を読みたくてのぅ、日系人がノーベル賞とったし」


「おじいちゃん」

「おじいちゃん」

「おじいちゃん」



「ぬわぁぁぁ!! 心休まらっ――」



「「「 し、死んでる……! 」」」


ということになりかねない。最悪の末路だ。


でも注目なんてブームみたいなもので必ず飽きが来るはずだ。

こうなったら最終手段しかない。


「……それでうちのコールドスリープを体験したいと?」


「はい! コールドスリープで眠らせてもらって、

 みんなの注目がすっかり冷え切るまで待つんです!」


「はぁ……。そんな理由で長期間睡眠しようとする人ははじめてですよ」


コールドスリープのカプセルに入って寝転がる。

気分はまるで宇宙船のクルーだ。


「それじゃ一度眠ったら次起きるのは100年後です」


「さすがに俺の注目度もなくなってますね! お願いします!」


コールドスリープが起動して静かな眠気が広がっていった。


 ・

 ・

 ・


100年後、そっと目を覚ます。


「ふぅ、さすがにこれだけ時間が経過すればきっと俺の注目も――」


カプセルを開けた瞬間、まばゆいフラッシュが点滅した。

※小説読んでいる方は部屋を明るくして激しい明滅にご注意ください。


「100年後の世界はどうですか!?」

「現代の浦島太郎になった気分をどうぞ!!」

「コールドスリープではどんな夢を見ましたか!?」


「え、ええええ!?」


注目度は落ちるどころかさらにエスカレートしていた。

家に閉じこもったところで、持ち前の注目度のせいで近所の子供に家は特定されるし

記者はひっきりなしにやってくるので穏やかでいられない。


「もうこんな生活どうすればいいんだよぉ!!」


絶望のふちに堕ちたとき、ふとアイデアが浮かんだ。


「待てよ……この注目度を利用すればいいんじゃないか……!?」


どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのか。

今までこの注目度の高さを避けるようにしていたがむしろ逆。

これを有効活用しない手はない。


「みなさんはじめまして!! このたび市長選に立候補した山田です!!」


選挙に立候補すれば持ち前の注目度で、

たいした宣伝活動をしなくても一発当選。なにこのイージーモード。


「このたび市長となりました、山田です。

 今回は番組コメンテーターとしてお邪魔させてもらっています」


テレビに出れば、その注目度から視聴率は高くなる。


「最初からこうすればよかったんだ! 無理に抗わずに

 この注目度の波にのってしまえばよかったんだ! わはははは!!」


どこからも引っ張りだこで幸せだ。

この世界を回しているのはおそらく俺だ。間違いない。



そのとき、急に空からスポットライトが当たり体が宙にうかんだ。


「わ!? わ!? なんだこれ!?」


抵抗する間もなく、空にうかぶ宇宙船の中へと回収されてしまった。

宇宙船のベッドに寝かしつけられて宇宙人がなにやら研究をしている。


やれやれ。俺の注目度は地球にとどまらず全銀河にも影響させちまったか。


「ワレワレハウチュウジンダ」


「見ればわかる」


「ディスイズアペン」


「だから見ればわかるって!!!」


宇宙人は何やら怪しげな機械や薬を手際よく準備しはじめた。

今にも何か人体実験が行われそうだ。


「お前たち……いったい何をする気だ!!」


「我々はお前を研究する。殺しはしない」


「フッ……そうだと思ったぜ。俺の注目を集める不思議な体質を

 すみからすみまで研究したいんだろう。いいぜ、さぁ研究してみろ!」


俺は覚悟を決めた。

宇宙人は困惑した。




「いや、ワレワレはこれだけ注目が集まっているのに

 異性にまったく好かれていない部分を研究したいのだ。

 人間を遠ざけるウイルスが作れるかもしれないし……」

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