印象だけで評価しないでください!

ちびまるフォイ

人気雑誌になくてはならない新能力

"アシタ ノ チケットデス"


「ふっ、当然だ」


スマホの画面を見て、明日への参加資格が得られたことを知った。

五本木ヒルズで雑誌の編集長をしているいわば勝ち組。

そんな俺が明日の参加権利を得るのは当然。


翌日、会社に行くと1席空いていた。


「山田は……チケット発行されなかったのか。

 今日の参加資格がなかったんだな」


チケットが発行されなければ今日に参加することはできない。

なにか失敗やスキャンダルがあったのだろう。


周りからの評価が一定より低くなるとチケットは発行されない。

大事なのは周りにどう思われるかなのだ。


「編集長、今日の面接希望者が2人来ました」


「すぐいくよ、ありがとう」


周りからのイメージを良くするために感謝の言葉もそえた。

これは明日も参加資格確定だな。


会議室につくと2人の希望者が待っていた。


「やぁ、君たちが希望者だね。まぁ座りたまえ」


「はい! 失礼します!」

「失礼します……」


明暗がくっきりと分かれる対照的な2人。


「君たちの経験を聞かせてもらえるかな?」


「はい! 何もしたことないです!」

「学生時代から雑誌を作成、仕事もしたことあります……」


「ふむふむ」


「よくわからないけどとりあえず受けました!」

「この会社にはかねてから興味がありました……」


「よし決めたぞ! 元気な方の君を採用だ!」



「ありがとうございます! 経験ゼロですが頑張ります!!」


落選した元気のなかった方は不服そうにしていた。

経験も仕事への意欲もまちがいなくこちらの方が勝っているだろう。だが……。


「君が落ちたのはね、イメージだよ」


「イメージ……?」


「この世界はなによりもイメージが大事なんだよ。

 能力がある根暗よりも、バカな人気者の方が求められるんだ。アンダースタン?」


面接が終わってその日の仕事も終えた。

周りのイメージが悪くなるので残業はせずにさっさと帰る。


仕事が残っていたとしても明日へ参加するにはイメージのキープが大事。


"仕事をすぐに終えてさっそうと帰宅するビジネスマン"

をみなに印象づけてイメージを良くする。


「フッ……辛いな。第一線の雑誌編集っているのは……」


誰か見ているかもしれないので、かっこよく髪をかきあげ、自慢の腕時計をさりげなく見せる。

露骨すぎると成金臭くなってイメージわるくなるのでほどほどに。



「大変よ! 川に子犬が!!」


橋を歩いていると、誰かが川に流されている子犬を指さした。

迷っている時間はない。


「すぐいくぞ!!」


こんな千載一遇のイメージチャンスをムダにできるか。

ここで犬を助けられても助けられなくても、

誰よりも先に助けに行った自分は最高にイメージがいい。


永久明日参加資格を得ることも視野だ。


「わんわんわん!」


「どりゃあああ!」


子犬を川辺へと出してなんとかことなきを得た。


「もう流されるんじゃないぞ、川も……時代の波にも」


せっかくなのでかっこいい言葉を残しておいた。

誰か記事にしろ。


その夜。


スマホの画面を見ていても全然チケットが発行されない。


「お、おかしいな。あれだけイメージ良い事したのに。

 どうして明日チケットが発行されないんだ? 壊れた?」


夜が明けるまでスマホとにらめっこしていたが結局ダメだった。

明日、というより今日の参加資格を失った。はじめての経験だった。


「ま、まぁ。何かの手違いってこともあるだろう。今日も普通に過ごそう。

 あれだけイメージのよかった俺が今日に参加しないことの方が問題だ」


自分を納得させるように会社にいった。

でも、誰も俺を認識していないのか無視している。まるで透明人間。


「お、おい。見えてるんだろ? どうして無視するんだ?」


「でさー、昨日編集長を見たんだけどーー」


俺の目の前で俺の噂をする。

やっぱり完全に見えていないんだ。


「えーー? どこで見たの?」

「橋よ橋。でさ、急に服を脱いでパンイチで川に飛び込んだの」


「いやそれは子犬を助けるために……!」


「編集長が? まじ!? やば、変態じゃーーん」

「でしょ。マジでやばいよねーー」


「もしもーーし!! 子犬を助けただけなんですけどーー!!」


今日への参加資格がない人間は存在すら認識されない。

しかも、昨日の武勇伝がこんな歪曲されているなんて思いもしなかった。


噂をしている人には悪意が感じられないものの、

聞いた話をそのままイメージに直結させてしまっている。


「あれだけイメージのよかった俺がそんなことするわけないじゃん!

 服を脱いだのは服をダメにしたくなかったんだよ!」


「できる人ってやっぱりどこか変態ぽいのがあるのかもねー」

「意外だよねーー」


「って、俺のイメージを勝手に決めるなーー!」


どんなに叫んでも聞こえやしない。俺は今日に関わる権利がない。


一度、落ちたイメージを取り戻すのは難しく

明日も、その次も、その次々もチケットは発行されない。


「まずい……まずいぞ! このままじゃ俺がこの世界から消えてしまう!

 どんなにイメージが良くても覚えてもらってなきゃ意味がない!」


俺という敏腕編集長がいたことを思い出させなくては。

でもどうやって……。


「今日も明日も参加資格がないから誰にも認識されてもらえないし、

 これじゃどうあがいても印象を変えることなんてできない……。


 ……いや、待てよ!?」


ふと思い立って、参加資格もないまま今日の街にくり出した






その後、俺の活躍もあって雑誌は大人気になった。


俺の雑誌で掲載される独占スクープがとくに好評で

イメージのよかった芸能人の裏の顔をすっぱ抜いた。


「やっぱり編集長はすごい!」

「いったいどこでこんなことしてるんだ!」

「自らも現場で仕事するなんて素敵!!」


俺のイメージは大きく回復した。

貢献の副産物として明日への参加資格が得られる。



"アシタ ノ チケットデス"



でも俺はすぐに断った。


「明日への参加資格なんていらないよ!

 認識されずにパパラッチできなくなるじゃないか!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

印象だけで評価しないでください! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ