第5話

「――――」

 アキラたちと別れたマヤは講義も休み、学校内にある商売委員会飲食部の店――喫茶・九里金とんに訪れていた。


 この喫茶は、マヤの恋人である伊彩 ツカサがよく訪れる場所であり、ツカサがここにいるから。と、マヤに来るようにメールで返事をしたのである。


「う~んと――」

「マヤちゃんこっち」優しげな表情の男が手を上げてマヤを呼んだ。「ごめんね、わざわざ来てもらって」

「ううん、気にしないよ」マヤはツカサの向かいに座るのだが、両隣にはツカサの友人がおり、居心地が悪いのか顔を伏せる。


「――っと、2人とは今出ている課題について話していてね」

「あ、そうだったんだ。私の方こそごめんね、そんな時に会ってもらって」

「良いよ良いよ――マヤちゃん、何か頼む?」

「あ、うん。それじゃあフルーツの盛り合わせってあるかな?」

「うん? フルーツ――ちょっと待ってて」ツカサは店員を呼ぶと、その店員にフルーツの盛り合わせが出来るかを尋ねていた。


 しかし、店員が首を傾げ、面倒くさそうに出来ない。と、告げるのだが、奥から男性が飛び出てきて、ツカサに頭を下げた。


 出来ますので少々お待ちを――男性はそれだけ言うと店員を引っ張り、奥に引っ込んだ。

「――?」

「ああ、この店は家と縁がある店だから、我が儘を聞いてもらえるんだよ。まったく、出来ないなら出来ないでも良いのにね――っと、そうしたら、俺がフルーツあんみつでも頼んで、フルーツだけ……は、ちょっと汚いかな?」ツカサがはにかんだ。


「ううん、ありがとう」

「さて――せっかくだし、マヤちゃんも課題をやるかい? ここには同じ道を通った先輩がいるんだ、わからないところがあったらいくらでも教えるよ。マヤちゃんも一応、商売委員専攻だよね?」


「わぁ――」マヤは顔を綻ばせ、鞄からノートや講義の際に出た課題を机に広げた。「えっと……うん、そうだよ。それじゃあ、お言葉に甘えても――?」

「ああ、もちろんさ――」すると、そんな二人の空気を察してか、ツカサの友人である2人がツカサをからかいながら鞄を手に持った。「ん? ああ、すまない。気を遣わせるつもりはなかったんだけど」


「そ、そうだよ、ここにいても――」しかし、2人はニヤニヤとしながら手を振って店から出て行ったのである。「……むぅ、悪いことしちゃったかな?」

「いやいや、気にしないで。あいつらも、マヤちゃんが来るまでここにいるって最初から言っていたし」

「あぅ、そうなんだ」


 そう言うツカサだが、携帯を開いてメールで『ありがとう』の文章を送っている辺り、2人の友人が気を利かせたことがわかる。

「さて――ねぇマヤちゃん、せっかくこうして2人きりになったんだし、家で課題やっちゃおうか?」

「……うん」何かを期待しているような、そんな紅潮した表情で、マヤは頷いた。

 そうして、マヤとツカサが頼んだ品が運ばれてきたのだが、2人はそれを食べ終わると、その場をそこそこに店から出た。

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