相手への思いやりを持てなければ死ぬデスゲーム

なんとなく最近、他人への思いやりを持たない人が増えてきたような気がする。
そんなことをここ数年、感じていた。
僕は長年商売をやっているが、自分を神様だと信じ込んでいるお客は増える一方だし、街に出てもなんだかちょっとやれやれって感じの人が多くて困ってしまう。
みんなが少しずつでも他人への思いやりを持てるようになれば、今よりずっと生きやすい社会になるのに……そう思わずにはいられなかった。

だから今作のあらすじを見た時、強く惹かれた。
思いやりを持てないと死んでしまうとは物騒だが、「相手を思いやる気持ち」という、今の競争社会では忘れられがちな人間性で生死を決めるのは、実に小説らしくて魅力的な設定である。
なによりそうして生まれ変わった世界を見てみたいと思った。

そして僕は今作をのめりこむようにして読んだ。
サイコゲームによって作られた思いやり社会、同時に生まれた矛盾と不安。やがて思いやりとは逆の感情に支配されていく世界に、「思いやり」というのは強いられるとむしろ毒薬になるものだと知った。
それはサイコゲームのような過激なシステムのせいだけではない。
きっと「思いやり」は他人に強制したり、そのように仕向けたり、教育する類のものではなく、まずはひとりひとり自分自身がそれを意識する事でしか始められないからだろう。

今作をカフェで読み終えた後、外に出ると自転車置き場が満車になっていて、ひとりの女性が自転車から降りて困っていた。
「あ、今出ますからちょっと待ってて」
慌てて自分の自転車を出してスペースを空けると、女の人は笑顔を浮かべて「ありがとうございます」とお礼を言った。
それだけでほんの少し世界が良くなった気がした。
多分、そういうものなんだろう。

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