第47話


「えーっと、あの」




 いったい何から聞けばいいんだ?

 目の前には少しエッチな女性、その女性を、さっきまで戦っていた四人が止めている。

 他の皆もその様子をぽかんとして見ている。

 なんだこれ……そう言葉に出したかったが、とりあえず、




「柊……麻帆さん、でいいんですもんね?」


「だからー、そう言ってるじゃない。さあさあ、早く中に入って!」




 手招きする麻帆、その表情は飼い主を待っていた犬のような、そんな愛しさを感じさせる。

 それに、年齢は二十後半……だと思うんだけど、声色、反応━━どれを見ても幼い印象を与える。


 そして、僕達は広い部屋へと案内される。

 朱色のコの字のソファー、何台も置かれたパソコン、誰かわからない似顔絵の額縁。

 どれを見ても金持ちの家にある物達。

 僕達はソファーに腰掛けると、硝子の長テーブルを挟んだソファーに座る麻帆が話を始める。




「まずは……手荒な歓迎ですまなかったね。柚木君」


「いえ、敵対する人達じゃなくて良かったです」




 まだ何も言ってないが、おそらく━━敵対はしていないだろう。

 何故僕達に攻撃を仕掛けたのかはわからないが。


 そんな中、少し威嚇的に言葉をはっしたのはカノンだった。




「どうして主様を狙ったんですか? もしかしたら傷をおっていたかもしれないんですよ!?」


「……どうして主様を、か。自分の心配じゃなくて主人の心配なんて━━柚木君の事が好きなんだね、カノンちゃんは」


「━━っ! 話をごまかさないでください!」




 麻帆は母親のような眼差しを向け、高々と笑っている。

 そんな麻帆の言葉を聞いて顔を赤らめ、さらに激昂するカノン。

 僕だけじゃなくてカノンの名前も知っているのか、どこでそんな情報を仕入れたのか、ニュースでは流れていなかったはずだけど。


 そして、麻帆は隣に座る四人に声をかける。




「説明する前に……ねえ、四人は戦ってみてどうだった? じゃあ、しまっちから」


「どうだったって……」




 麻帆の視線は、シノ達と戦っていた男性(しまっち)に向けられる。

 男性は少し唸りながら、




「風の二人は良かったと思いますが……他はちょっと」


「━━みさみさは?」


「えっ……私ですか? そうですね、二人以外が戦わないと早い段階でわかったので━━正直楽でしたね」




 大人しめの女性(みさみさ)ははっきりと答えた。

 見かけによらずはっきりと言う事は言うんだな。

 それに、麻帆は皆の事をあだ名で呼んでいるのか、しまっちはどんな名前かわからないけど、みさみさは、おそらくみさという名前なのだろう。




「でもお前ら時間かかってたじゃねえか、志磨しま心咲みさきも、結構苦戦してたんじゃねえのか?」




 みさき……か、それにしまっちはしまか。

 色々と外れてしまった。

 エンリヒートと戦っていた男性が笑いながら問い掛けてる、それを志磨と心咲は睨み、




「仕方ないだろ……麻帆さんの命令なんだから」


「そうそう、私がもう少し様子を見て! って言った」


「なんだ……そういう事ですか」




 様子を見てって言った? どうやって伝えたんだ?

 もしかしたら、戦闘中に危惧していたカノンに似た精霊というのは━━


 憶測が巡る中、話は進んでいく。




「っで、ファイヤーライオンはどうだった?」


「━━っ!」




 その言葉を聞いて、青年は顔を赤くしながら悶絶している。

 ファイヤーライオン、まあ、精霊はそんな感じだけど━━絶対に名前の方が短いよね。

 なんだか可哀想という感情と、笑いの感情が同時に込み上げてくる。


 ファイヤーライオンはわざとらしい咳払いをして、




「僕は繁信しげのぶですから、恥ずかしいのでそう呼んでください━━っで、彼らはかなり強いですね、個々の力は僕らよりも上ですし、作戦も良かったです。それに連携も……たぶん、麻帆さんに似た精霊術を使ってたと思います、通信機器は付けていませんでしたから」




 ファイヤーライオン改め、繁信は僕らを見ながら答える。


 これは……褒められている?

 個々の力、は三人の力の事だと思うけど、作戦と連携を褒められたのは嬉しい。

 麻帆は何度も頷き、




「うんうん、っで、パペットマスターは?」


「…………」




 麻帆の不意の攻撃に、攻撃を受けた者はピクリと揺れ、返事をしない。

 ただ、これには三人も我慢できず吹き出してしまった。

 その三人はもちろん、アグニルとエンリヒート、それにカノンだ。

 僕はなんとか堪えたが、三人は声に出しながら笑っている。

 それを見て、パペットマスターと呼ばれていた女性は、




「おいっ! お前ら何笑ってんだよ!」


「だって、だってパペットマスターって、まんまじゃんか」


「ほらー、良かったね! うけてるよ!」




 パペットマスターは恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながらテーブルを何度も叩いている。

 エンリヒートの反応に、真っ赤にした彼女の肩を叩き、麻帆も嬉しそうにしている。




「はあ、私の名前は芽衣だ! パペットマスターって呼ぶな!」


「まあまあ芽衣ちゃん、少し場を和ませようとしただけなんだからそんな怒らないで、それで? どうだったの?」


「……はあ、それは良かったと思いますよ? 何度か危ないところがありましたから」


「何度かって……結構あっただろ?」


「うるせっ、あんたが一体に的を絞ってるから他の奴等がうちに来たんだぞ!? わかってんのか!?」




 完全に僕らを無視して話をしている。

 確かに、彼等のような実力者から受ける評価は気になる。

 だけど、今気になるのは別の事だ━━それは、




「すいません、取り込み中かと思うんですけど、僕達を狙った理由はなんですか?」


「あー、ごめんね、それは皆の実力を知りたかったのよ!」



  

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