第46話
「いやー惜しかったね……実に良い作戦だったんだけど、後少し足りなかったみたいだ」
エンリヒートが相手をしている男性が笑みを浮かべる。
馬鹿にしている様子はなく、本心から言っているのか、両手を叩き、称賛の拍手をこちらに贈っている。
━━何故、決まらなかった。
タイミングは完璧だった。
なのにどうして詠まれた?
絶望に沈む最中、エンリヒートの声が響く。
「主様! 動揺している暇は無いぞ! 次の、次の策を!」
召喚士と精霊に追い詰められ、必死に日本刀で抑えるエンリヒート。
だけど策は……。
『━━主様!』
思考を巡らせていると、頭の中にアグニルの声が聞こえた。
その声は動揺した声ではなく、ハッキリとした力強い声だった。
『少し……こいつらの連携が良すぎる気がします』
『連携が良すぎる?』
確かに僕も思う、でもそれが経験の差だと思っていた━━カノンの声を聞くまでは。
『おそらく……私と一緒で声を発せずに、離れた位置から会話をする事ができる精霊がいるのだと思います』
『ああ、私もそう思うぜ、主様が矢を放つ前、私の相手をしているこの男、ずっと主様を見ていたからな』
『でも、誰がそんな事を』
もしその言葉が正しいなら、誰がそんな事を?
エンリヒートの相手をしている男性はライオンの精霊と契約してるから違う、それに奥に見える女性も人形使いだ、二体の精霊と契約してる可能性はある━━だけどたぶん違う。
だとすれば。
『僕達が相手をしていない、シノさん達が相手をしている二人の中に、カノンに似た精霊がいるのか?』
『おそらく……それか、全く別な者か。どちらにしても、そいつを倒さないと劣勢は続きます』
人形達だけでも厄介なのに……そんな面倒な奴がいるのか。
シノさん達の姿も音も、炎の柱が邪魔で聞こえない、もしいるのなら、向こうは一人を相手にしている事になる━━シノさん達の実力なら時間がかかり過ぎている気もする。
━━とりあえず。
「カノンはエンリヒートの援護をして!」
「えっ、じゃあ主様は!?」
「僕はアグニルの所に向かう!」
カノンは動揺した表情でこちらを見ているが、何か決心したのか、頷き、エンリヒートの側に向かって羊達で援護している。
その隙に僕は急坂を登る。
その途中、人形達が邪魔をしてくるが細い矢を放ち吹き飛ばす。
人形達は後方へ飛んでいくが、すぐに体を起こし、再び僕に狙いを付けて走ってくる。
かなり霊力を使ってきた、僕の霊力はまだ持つだろうか?
だが具合は悪くならない、まだ大丈夫のようだ。
『アグニル! その人形の主の付近に他の精霊召喚士の姿は見えない!?』
『えっ! 特には見えませんが……それよりどうしてこっちに!?』
アグニルは周りの人形を相手にしながら、顔は振り返らず、少し驚いた声を出す。
その言葉に答えず、僕は走り続けた、人形達は無駄に多い、今も増え続けている、だけど今は無視だ━━今は、
「へえー、うちを狙いに来たってことか……いいよ、おいでよ」
「アグニル! 雑魚には構うな! 本体を狙え」
「は、はい!」
「……雑魚、だと? 私の人形を舐めるなよ!」
丘の上で仁王立ちしている召喚士は、おそらく怒っている━━いや、激怒だな、あれは。
まあ、雑魚ではないけど、そう言った方がいいと思った、なんとなく。
金色に光る弓を構え、召喚士目掛けて矢を放つ、速度を意識、威力はそれなり。
だが数を━━彼女を守る人形を倒れさせる程、多く連射する。
「甘いよ! そんな弱っちい矢なんてよ! 人形達、あの召喚士を狙え!」
「主様の所には行かせない! 敵を貫け━━
僕の元に走ってくる人形達に、アグニルは雷というよりも大きく太い、雷を棒状の物体に纏った槍を人形達目掛けて放つ。
触れた瞬間、バンっと破裂音を鳴らし、人形達の粘土状の体は爆発し、粉々になって地面に撒き散った。
おかげで目の前に道ができた、召喚士までの道、後はこいつをやれば、僕は弓を構え、人形の主に狙いを定める━━だが、人形の主は笑う。
「惜しかったね……でも、終了だよ?」
「━━えっ?」
突然、隣で燃え盛っていた炎の柱は消え、右側の視界が開かれる。
「……ごめん、如月君」
動きを封じられているシノとシルフィーが目に入った。
その後ろには大柄で無精髭を生やした男性と、小柄でおとなしめの女性がいる。
柚葉や雫、それに小人達も無事のようだ━━一応。
「おせえよ、どんだけ待たせんだよ!」
「すまん、結構粘られてな。そっちは苦戦していたみたいだな?」
「はっ! うちらは苦戦してないから!」
「もう……皆さん、喧嘩は止めましょうよ━━それより」
二人の元に、僕達の相手した者達も集まり、いつのまにか固まって話をしていた、そして、僕に目を向け。
「如月 柚木君……だね? ゆっくり話をしないか?」
「話を? それより彼女達を離してもらえないですか?」
「ああ、そうだね、はい、これでいいかい?」
僕の言葉に、あっさり皆を離した。
何が目的だ? 全然理解ができない、だけど、この状況は、
「……わかりました、ここで話をしますか?」
「いいや、あそこで話をしようか?」
エンリヒートと戦っていた青年の召喚士は、ニコッと爽やかな笑みを見せ、丘の上の一軒家を指差す。
あそこは……雫が言っていた場所、どうして彼らが?
「じゃあ、付いて来てくれるかな?」
「ええわかりました、みんな行こう」
僕達は後を付いて行く、逃げる隙は━━無いな。
青年男性は前を歩いているが、他の三人は左右、そして後ろに付き、ぴったりとマークされている。
『主様……どうしますか?』
『どうするって……とりあえず付いて行く』
『逃げるのは不可能だな……あいつら、ぴったりと柚葉ちゃんをマークしているぜ』
柚葉を抑えれば逃げられない━━そういう事か、とにかく、逃げられないなら一緒に向かうしかない、元々の目的地であるこの家に。
「それじゃ、入ってくれ」
綺麗で大きな家、そして、庭では犬が僕達の姿を見て吠えている、なんとも気の緩みそうな光景だ。
僕達は中へと入って行く、扉の先には横幅の大きな階段、外で見たよりも中は広く、何処かのお屋敷の一部のような内装だ。
「あっ、いらっしゃーい」
そして、急に間抜けな女性の声が聞こえた。
「ちょっと! 麻帆さん、もう少し緊張感持ってくださいよ、それにその格好で歩かないでくださいよ」
「えー、だって折角のお客様だよー、それにー」
階段を上がった所にいる大人の雰囲気がだだもれの女性。
ピンクのドレスを着こなし、華やかな茶色の巻き髪、そして、胸元はガバッと開き、見えてはいけない所まで見えそうだ。
それに、今なんて言った?
「もしかして……あなたが、柊 麻帆さんですか?」
「ふっふっふっー、あなたが会いたがっていた柊麻帆ちゃんですよー」
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