第33話
後ろを走る誰かから、荒い息遣いが聞こえる、だけど僕達は走る。
━━何処に?
誰もこの言葉を口にはしない、だが皆も思ってる筈だ。
後方では神宮寺の憎たらしい声が聞こえる、「待て」だとか「逃げるのか」だとか。
だがそんな言葉は無視だ━━振り向いて舌を出す気分も余裕も無い。
そして、奴らが見えなくなってから、僕達は戦場と化した街の近くにある林に身を隠した。
「ここまで来れば……大丈夫、か」
「ああ、あの狸野郎が走って追いかけてくる筈が無いからな」
走った時間は約十分くらいだろう、僕達の呼吸は乱れていた。
敵と呼べる者が周りにはいない、とりあえずは安全と呼べるだろう、それに二人から話を聞くなら今だ、そう思った。
「先生、それに恵斗。聞きたい事があるんですが」
この場にいる全員の息が荒い、柚葉に関しては膝に手を当て、今にも座り込みそうだ。
そして、仲神は荒くなった息を整え、僕に頭を下げ、
「聞かれる前に……すまなかったな、いきなり姿を消して」
「それは、まあそうですね━━正直裏切られたと思いましたから」
「柚木! 違うんだ、彩夏姉さんは」
「彩夏……姉さん? いつもはそう呼んでるんだね、恵斗」
恵斗と仲神は僕の言葉を聞いた瞬間、合わせていた目を下に向ける。
恵斗が仲神の事を下の名前で呼んでるところを初めて聞いた、それほど親しい仲なのか。
助けてくれた事には感謝している、だけどなんだか、はっきりとわからないけど裏切られた気分だ。
恵斗は額を指で撫でているだけで何も答えない、代わりに仲神は家屋の瓦礫に座り、答えてくれた。
「私達は反日本政府のメンバーだ、元だけどな」
「二人が……なんでですか?」
「あいつの言っていた事は本当なんだ、私は元々、神宮寺に拾われた、要するに捨て子だったんだよ」
「えっ、そんな……じゃあ恵斗は」
「こいつは私が神宮寺の所に来てちょっとしてから拾われてきた、こいつも捨て子だったらしくてな、だからこいつとの付き合いはもう長くなるな」
思い出話を楽しく━━そんな楽しそうには見えない、苦しそうに悲しそうしている、それは隣にいる恵斗も同じだった。
エンリヒートは二人を見ながら、
「じゃあ、あんた達は最初から主様の事を狙っていたのか? 狙う為に友達になって、狙う為に教師になったのか?」
「それは違う、反日本政府が如月を狙っていると知ったのは、私がお前達を訓練した日だ、それまでは全く知らなかった」
エンリヒートの言葉に、仲神は落ち着きながら否定していた。
だからあの日、仲神は急に僕達の訓練をしてくれて、それにその場所に恵斗もいたのか。
だがなんで訓練をしてくれたんだ、狙っている事を知っていたなら、敵であるなら助けないはずだ、じゃあやっぱり。
そう思った、だけど先にエンリヒートが質問する。
「じゃあ、なんですぐに主様に言わなかったんだ? 狙うつもりがなかったならすぐに言うはずだよな?」
「それはだな……その」
仲神は再び目を反らし、返答しない。
そんな中、黙っていたアグニルが口を開く。
「結局……お二人は敵なんですか? 味方なんですか?」
「敵なら容赦しない……早く答えてくれないか?」
「待て! 確かに俺らは反日本政府に所属していた、でもそれには理由があるんだ、あの方がいたからで━━」
「またか……あの方って誰なんだよ?」
アグニルとエンリヒートは二人を睨みつけ、恵斗は慌てて口を挟む。
また出てきたあの方という人物。
信じていたからこそ━━二人が何かを隠し、今も明かさない状況に、僕は苛立ちを隠せない。
そんな僕らの熱くなった心を遮るように、カノンは僕の手を握り、
「主様もお姉ちゃん達も━━そんな態度取ってたら話したくても話せないですよ? まずは聞きましょうよ」
「ああ、あの方っていうのは━━」
確かにカノンの言うとおりだ、僕達は静かに話を聞こうとした、少ししてから仲神が話そうとした。
━━だが、突然「ここにいたんですね」という大人しそうな女性の声が背後から聞こえた、振り返ると、そこには笑顔を向けた雅がいた。
「雅! 無事だったんだね、良かっ━━」
「主様! ……下がってください」
アグニルが僕の前に立ち、じっと雅を睨みつけていた。
気付くとエンリヒートやカノン、仲神と恵斗も同じような目をしている。
そんな中、雅は不思議そうな表情を浮かべながら、
「どうしたんですか? 私……何かしましたか?」
「あんたは何もしていない、だから怪しいんだよ。なんでここにいるってわかった?」
「それは……そうですね、勘です、たまたま見つけたんですよ」
エンリヒートの言葉に、雅の表情は変わらない。
でもこの言葉に僕も違和感を感じた、偶然見つかるような所でも、たまたま通りかかるような場所でもない、ここは━━人から隠れられる為に選んだ場所なんだから。
「皆さんどうしたんですか? 仲神先生! 戻ってきてたんですね、良かった」
「ああ、ありがとう、でも━━」
「
仲神の警戒した言葉の途中、アグニルは精霊術、高速稲妻を使った。
それを無防備な彼女に使ったら━━そう思ったのだが、小さな雷は雅の心臓部分の出前で止まる、というよりは何かに防がれたようだった。
その光景を見て、アグニルの表情が一変する。
「なぜ……なぜお前がその精霊術を使える! それは━━」
「あららー、まさかいきなり攻撃してくるとは思わなかったからつい防いじゃったよ━━先生どうしますか?」
アグニルの怒りを露にした言葉を遮り、雅は髪をくるくると指で巻きながら、 いつもより明るい声を出す。
普段の彼女とは全く違う雰囲気、その姿に違和感を感じ、不意に雅の背後に誰かがいるのを感じた。
白髪をぐちゃぐちゃにして、何年も着ているであろうあちこちに皺のついた白衣、黒緑の眼鏡をかけ、少し外人のような尖った鼻。
どこか知的な雰囲気が滲みでる男性、年齢は三十代くらいだろうか。
そんな男性が僕達を見ながら、目を細め笑顔を向けてくる。
「━━さすがですね、初代精霊召喚士。相変わらずの行動の速さだ」
笑顔を向けてくる男性から発せられた言葉に驚愕した。
そして、感情を露にしているのはアグニルだけではなかった、エンリヒートもカノンもだ。
「なんで、なんでお前がいる━━コスタルカ!」
「約七十年ぶりの再会だというのに、もう少し嬉しそうにしてくれないですか?」
この人がコスタルカ? 七十年ぶりの再会と言ってたけど、まだ三十代にしか見えない。
もし本当にコスタルカなら、なんで、
「雅! なんで君はそこにいるんだ!? 君はいったい」
「私は先生の弟子━━そんな感じですかねー、ねっ先生!」
「まあ、そんなところかな? 僕は認めたつもりはないけど」
雅は二重人格なのか? そう思えるほどに、普段の雅とは別人だ。
そして二人は仲良さそうに話している、そして、コスタルカは僕に真剣な表情で、
「今日は君に話があって来たんだ、如月 柚木君━━いや、如月
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