第21話


「主様、その精霊が言ってるのか!?」


「えっ! そう伝えてって言われたけど」




 エンリヒートもアグニルも、どちらの表情は険しく、足や手を掴み、じっと僕を見上げてくる。

 二人が驚いた表情を見せるのには理由があり、僕も理解できる。

 二人の仲間を殺した━━正確には殺されかけたアグニルを助けた、と言うべきか……。二人にとってはティデリアは仲間であり、アグニルにとっては命の恩人、そんなティデリアの仇であるコスタルカを見つけたという情報は、喉から手が出る程欲しい情報だ。




『少し前に、コスタルカに主を殺されたっていう精霊が理想郷シャングリラに戻ってきました、その精霊からの情報なので確かだと思います』


「━━って、言ってるけど」


「そう……ですか。それで、コスタルカは何処にいるんですか?」




 カノンの言葉を正確に伝え、二人の回答を聞き、そしてまたカノンの言葉を二人に伝える。


 ━━これほど疲れる伝言ゲームはあるだろうか? 


 僕が知る限りでは無い。

 それにカノンの言葉に僕自身も驚かされるのだから疲れも倍増だ。

 そしてカノンの言葉は続き、僕はその言葉を聞いて背中や額からは尋常ではない汗が流れ、頭の思考回路が故障したように、口が開かない。




「主様……何て言ってるのですか?」


「えっと、それが……この日本にいるって」




 僕はアグニルに急かされカノンの言葉を伝えた。

 二人は口を半開きに開いて固まり、僕をじって見ている。

 二人の言いたい事はなんとなくだがわかった。

 ━━なぜ日本に?

 別に日本にいてもおかしくはない、だが、二人からコスタルカの話を聞く限りでは危ない人間なのだろう、決して旅行目的ではない事は確かだ、何か、何か他に明確な目的があるのだろう。

 それよりも日本の何処にいるかだ……あまり近くにはいてほしくはないが。




「日本の何処にいるんですか!?」


『そこまではわかりません、まだ遠くには移動していないとは思いますが』


「━━って言ってるけど、何か目的があって日本に来てるなら……僕も直ぐには移動してないと思うな」


「そうだな、おそらくまだこの付近、あるいは日本の何処かに……どうする?」




 どうする? とはどういう事なのか。

 エンリヒートはじっとアグニルを見つめるが、アグニルは少し考え、首を左右に振る、




「まだ……あいつには勝てないよ。あの教師にすら勝てないんだから、今の私達では」


『それに……どうやら仲間がいるみたいですよ』


「━━って言ってるけど、前からいたの?」 


「仲間、仲間ですか。私達の時には一人もいなかったのに……何人くらいいるんですか?」


『人数はわからないですが、かなりの腕前らしいですよ?』 




 カノンの言葉を伝えた所で寮へと着いた。

 僕らは一度会話を止め、部屋の中に入る、まだ時間は十三時、エンリヒートはソファーに寝そべり、アグニルはベッドに座りくつろぎ始めた━━明日まで眠る、まあそんなわけないか。

 僕は黙ってコップに牛乳とアイスコーヒーを注ぎ、二人へと渡す。

 二人に「ありがとう」と言われ話を続ける。





「とりあえず、今私達が考える事はお互いを信頼して連携を上げ、実力を上げる事、じゃないとコスタルカと会えたとしても勝てないからな」


「まあそうだね、ところでアグニルが精霊召喚士だった頃はどう戦ってたのかな?」


「そうですね、基本的にはエンリヒートが突撃して、フィーナが離れた位置から雷で攻撃して、ティデリアが私の側で守ってくれて……っていう感じですかね?」


「なるほど、じゃあ二人の役割はその頃に似てるね……違うのは」


『主様を守る精霊がいない……ですね』




 カノンの声はなんだか楽しそうだった。

 アグニルが精霊召喚士だった頃と違うのは、精霊召喚士を守る精霊がいない事だ。

 今の段階でできる作戦は、どっちかを僕の側に置き、どっちかを前戦に出す事━━だが、これは根本的な解決にはならない。

 精霊と精霊召喚士、二人を相手にする場合はどちらかをアグニルが、どちらかをエンリヒートが相手にしなくてはいけない、結局負担は大きい、それに雅のように三体の精霊と契約している場合、その負担は倍増する。

 やはり、自分自身を守る術が無いと厳しいな。




「アグニルは何もしないで見てた感じなのかな?」


「言い方悪いですね……まあ、私は剣の扱いには自信があったので剣を使って身を守ってましたよ?」


「剣か……僕には厳しいな。弓道の心得ならあるんだけど」


「「弓道の心得があるんですか!?」」




 幼い頃から精霊召喚士である父さんを見てきたから弓道の心得はある、まあ実戦では使えないだろう、何せ木の矢じゃあ精霊召喚士への牽制くらいで━━精霊には痛くも痒くもないだろうから。

 そう思ってたのだが、二人の目は輝いていた。




「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!」


「えっ、だって木の矢じゃ力にはなれないと思ったから」


「それは木の矢だからだぜ主様」




 エンリヒートはそう言って立ち上がり、怒ってるのか笑ってるのかわからない表情を向けてくる。

 そのまま右手を前に出し、




「来い、火焔の剣よ!」


「ちょっと、部屋の中ではやめてよ!」


「まあまあ、はい主様パス!」


「ちょ、熱い……って、あれ。熱くない」



 勢いよく燃える火焔の剣は、まるで部屋の中を焼き付くすように燃え盛っている。

 エンリヒートはニコッと笑いながら火焔の剣を放り投げられる。

 絶対に熱いだろ! そう思ったのだが、火焔の剣を持っても全く熱くない。

 少し熱はあるが火傷するって程ではなく、どちらかというとぬるい? そんな感覚だ。




「契約を結んだ精霊の武器なら扱えるんだよ、だから精霊が呼び出した弓矢なら━━」


「そうか、それなら僕でも戦えるのか!」


「そうだよ! さあアグニル、雷の弓矢を主様に出して!」


「……えっ!? 私は弓矢は出せないよ? エンリヒートが出せるんじゃないの?」


「いや……私弓矢は専門外だから出せないよ」




 ……




 …………




 ………………





「「「 えっ? 」」」

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