第20話
「おつかれ、なかなか面白かったぞ」
「僕は面白くないよ……こんな圧倒的に負けるなんて」
僕達のいるタイルが並べられたステージから少し離れた場所、精霊闘技場の端に設置されている椅子に恵斗は座ってた、唇を横に伸ばしたわざとらしい笑みを浮かべている。
僕は全く笑えない、まさかこんな速攻で敗れるとは、そして隣を歩くアグニルとエンリヒートの表情も暗い。
僕達も恵斗の横に座る、そこに仲神が来て、
「お前らはなんでお互いを信じないんだ?」
「……それは」
「だって主様は精霊術が使えないから……だがら私達が守らないといけないでしょ?」
「そうかもしれないが、その考えを改めない限りお前達は一向に強くなれないぞ? もう少しお互いを信頼したらどうだ?」
心配しているわけでもなく怒っているわけでもなく、仲神の声色はいつもどおりだった。それなのに何故だか心に響く。
別に信頼してないわけではない、ただ、
「体が勝手に反応してしまうというか、それに今回は二人に何かあったのかと思って」
「まあ、今回のは確かに心配するなと言うのは無理があるが━━だからといって剣を構えている奴から目線を離す馬鹿がいるか?」
「それは……」
それは確かにそうだけど━━言い返そうとしたが口をつぐんだ。これ以上言葉を発してもただの言い訳にしかならない。それよりも言われた事を理解し、吸収する方が先決だ。そして今やれる事は、
「先生の言うとおりですね……二人も僕の事は心配しないでほしい、まあ急に言われても無理かもしれないけど」
「でもよ主様、主様は精霊術が使えないんだぜ? それなのにどうやって身を守るんだ?」
「そういえばお前、急に反射神経良くなったな? 何かあったのか?」
「それは……まあその」
皆の視線を感じる━━何か返事を返さないと。だけどなんて説明すればいいのか、カノンには私の事は話さないでと言われてるからな。
そんな中、黙っていた僕にアグニルは「私の目を見てください」と言われ頬を両手で抑えられ顔を近付けられた、小さな目は真っ直ぐに僕の目を見つめ、
「もしかして主様、私達とは別の精霊とお話してませんか?」
「なっ! なんでそれ━━」
『言っちゃだめ!』
アグニルの唐突な言葉に驚き、反応してしまった。カノンに止められ、口に手を当てるが既に遅い、もう否定できない言葉を喋ってしまったのだから。
周りの皆は驚いているのか、口を開け僕を見ている。そんな僕を見てアグニルだけはため息混じりに、
「私だって元々は精霊召喚士、三人の精霊と契約してましたからね、そういった経験はあります━━それに怪しい様子は沢山ありましたからね」
「もう一体って……ほんと柚木ってなんなんだ? 精霊三体と契約って。ありえねぇだろ」
「話をするだけなのか? 召喚はできないのか?」
「それはその……というよりまだ契約はしてないと思うんですが」
恵斗は驚き、仲神は疑問符を浮かべ、両者が僕を見ながら聞いてきた。
ただ、僕にははっきりと何か言葉を返す事ができない。
何故、精霊を三体も契約できるのか?
アグニルは以前、自分の体内にある霊力を半分以上僕に渡していると言っていたが、明確にはどれくらいの霊力が僕の体内にあるのかは不明だ。だがそこまで多くないと僕は思っている。なにせ父親は精霊召喚士だったが、母親は精霊召喚士じゃない、両親共に精霊召喚士の子供よりは少ない筈だ。
できてもカノンを含めた三人が限界だろう━━おそらく。
召喚できないのか?
それについてはカノンが拒んでいる、というよりは僕が主として相応しいかどうかを見定めている、というのが正確か。
どっちにしろ、今の僕にはどうしていいのかわからない。
なので言葉を返すことができなかった。
「それで主様、その私達の仲間になりそうな精霊は何の精霊なんだ?」
『……それは秘密です』
「……秘密らしいよ」
「随分と恥ずかしがり屋な精霊だな、そんな事も教えてくれないなんて、その精霊はお前と契約する気はあるのか?」
『それも秘密です』
「秘密……らしいです」
カノンの言葉を伝える僕、そんな僕に両手を上げ、「いみわからん」と呟く仲神。他の皆も似たような感じで首を左右に振ったりため息をついたりしている。
僕としてはこの板挟みの状況は勘弁してほしい。
「まあ、その精霊には姿を現さない何か理由があるのでしょうね、一度契約をしてしまったら主が死ぬまで契約を解除できませんから」
「だが精霊を召喚するのは精霊召喚士の想いの強さだろ? 声が聞こえるなら契約を交わしたって事だろ」
「それは……」
仲神と恵斗には精霊側が精霊召喚士を選んでいる事は伝えていない。アグニルは僕を見つめてくる。
教えた方がいいでしょうか? という疑問の顔なのか、もしそうなら教えた方が後々楽になるし意見も聞きたい、僕はアグニルに頷き返すと、アグニルは二人に説明を始めた。
ゆっくりとわかりやすい説明を聞く二人の表情はみるみる変わっていった。
赤い口紅を綺麗に塗った仲神の口元は丸く開き、恵斗は驚きよりも呆れたようなため息を漏らし、首を左右に何度も振っている。
「━━という事です」
「なんで、なんで今更こんな大事な話をする? 如月は知っていたのか?」
「えっまあ、アグニルから聞いていたので━━」
「何か二人から話を聞いたか、と前にお前に聞いた筈だが? 何故黙ってた?」
「えっと、それはその」
仲神の目は笑っていない。
おそらく本気で僕に怒っているのだろう。かなり威圧的な言葉に、鋭い眼差しを向けられた。
僕は正直恐いと思った、まだ仲神は二十二才、僕と四つしか変わらないのに威圧感が凄い、汗が額から流れるような恐ろしさを感じる。
「まあ今は許す、終わった話を今更しても仕方ないからな━━話を聞く限りとりあえずは如月を見定めている……そういう事でいいのか?」
「ええ、明確な理由があるはずなんですが、何か言われましたか?」
『それは教えてもいいですよ?』
「えっ! ……僕の気持ちが理解できないみたいで、何の為に僕が戦っているのかがわからないって」
「戦う理由……か。お前は何の為に戦ってるって言ったんだ?」
「二人の力になりたいって言いました、だけどそれは本心じゃないって言われましたが」
「本心じゃないか、そればっかりは柚木の問題だから何も口出しできないな」
「すいません、交代の時間です!」
恵斗の言葉と同時にこの場所に来てから二時間が経過してしまったようだ。
次の順番の生徒が扉を開け入ってきた。
話は途中だったが、僕達は速やかにこの場所を後にして、
「じゃあ話は明日にでも聞く、私は仕事が残ってるからな……帰ってから自分達で戦略を考えとけ、今日みたいな無様な戦い方は無しだぞ」
「じゃ、俺も行くわ!」
仲神と恵斗と別れ、僕達三人は寮へと帰ることにした。
━━その帰り道。
『やっと三人だけになりましたね━━主様、二人に伝えてもらいたい言葉があるんですがいいですか?』
「えっわかったよ、二人に伝えたい事があるって」
「三人目の精霊がですか? なんでしょう」
僕達三人……正確にはカノンを合わせた四人になると、カノンに言伝を頼まれた。僕はその言葉を一言一句間違いなく伝えた。
「アグニル、エンリヒート、二人の捜しているコスタルカを見つけたよ」
「━━っ!! どういう事ですか!?」
「見つけた!? あいつを見つけたのか!?」
僕は言葉を伝えながらも驚いたが、二人の顔は青白くなり、僕以上に驚いていた。
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