第9話


「ハハハハッ!! 初代、精霊スピリット召喚士サモナーが愛情を司る精霊か!! これは傑作だな」


「きさまっ!! 笑い過ぎだぞ!! ……エンリヒートも恥ずかしいからその名前で呼ぶなって言ったじゃないか!?」


「ごめんごめん、こんなに笑われるとは思ってもなかったからさ」





 腹の底から笑いだす仲神なかがみと赤面しながらも怒っているアグニル。

 確かにアグニルが、愛、なんて名のつく精霊だとは思ってもなかった。





「触れたら強くなるなんて……そんな馬鹿な」


「いや、愛情を司る下級精霊と契約した召喚士がそんな事をしていたのを見た事があるぞ、だから間違いではないと思うぞ?」


「だから主様は私達二人を可愛がる義務があるんだ、わかったら私の頬も、ほら早く!!」


「いや皆も見てるからさ」




 さっきまで笑っていた仲神は急に肯定的な発言だ。

 エンリヒートは僕の手を掴み、力一杯自分の頬へと誘導している。

 だがみんなの視線が気になる、人前でこんな恥ずかしい事をするのはさすがに━━。




「いいじゃないですか━━、私を召喚した時も彼女が欲しいって想って召喚してくれたじゃないですか」


「なっ!!」




 僕とエンリヒートの謎なやり取りを見ていたアグニルは、笑いながら僕の秘密を暴露した。

 何故ここで言ったのか。

 ただ、不意に痛い視線をあちこちから感じた。





「彼女欲しいって毎日の様に言っていたが……まさか精霊に頼むとは。友達として情けないぞ」


「私はあまり仲良くなかったですが……結構友達もいたのは知ってましたが、裏では違ったんですね」


「違う、少し邪な気持ちが混じっちゃっただけなんだ!!」





 二人の言葉を聞いて必死に否定するが、二人は何を言っても聞いてくれない。

 そして何も言葉を発しないが、仲神の視線は二人の様な蔑む目ではなく。お前は大事な時に何をしているんだ、と目だけで訴えている様だった。


 そして元凶でもあるアグニルは唇を震わせ、何故か笑うのを我慢している。





「ハァ……まあ今は見逃してやる。とりあえずもう暗くなるから帰るぞ」


「あっはい、ほら行こう!!」





 仲神は呆れた声を出す。

 気付くと空は青々した空ではなく、赤く染まった空へが沈みかけていた。

 辺りが暗くなった時にこの侵略者アンドロットの巣窟には居たくはない、正直不気味だ。

 直ぐにでも学校へと戻りたいのだが、小人達は雅の膝で気持ち良さそうに眠っている。

 雅が背中を叩き起こしているのだが、その叩く行為も三匹にはご褒美らしい、何故か嬉しそうだ。


 全員が立ち上がると、仲神が先頭を歩く、その後ろを恵斗と雅と三兄弟がついていく。

 その後ろに僕達三人なのだが━━。





「ねぇ、そんなに近かったら歩き難くない?」


「私は全然平気ですよ? もし歩き難いのであれば抱っこしていただいても構いませんよ?」


「私も抱っこしていいぞ? アグニルの様な小さい体よりも私の方が抱き心地は良いと思うぞ?」


「なんだと!?」





 僕を挟んだ二人がなにやら言い争いを始めた。


 右側には一三〇くらいの身長しかない幼女アグニル。


 左側には少し胸に膨らみはあるが、一四〇あるかないかくらいの身長の幼女エンリヒート。


 幼女と呼ぶよりも少女と呼んだ方が正しいだろうか、だが僕の個人的な感想では少女よりも幼女と呼んだ方が可愛く聞こえる━━、完全に個人の意見だが。





「二人とも、僕は小さな子供には興味無いからね!?」


「そんな事言っていいんですか?、私達は実年齢は主様よりも上ですからね……色々と経験豊富ですよ?」


「主様の知らない世界へ連れてってあげようか?」


「知らない……世界」





 二人は左右の腕を掴み、僕に不適な笑みを浮かべ見上げてくる。

 僕の知らない世界、その言葉を聞いて何故か唾を飲み、背中には謎な汗が流れるのを感じた。

 そんな僕の異変を感じたのか、二人は一斉に笑いだし、




「冗談だよ!! 主様はうぶだねぇ」


「安心してください主様、私達はまだ━━」


「クソ餓鬼共うるせぇんだよ!! 到着したんだから静かにしろ!!」





 先頭を歩く仲神は鬼の様な形相をこちらへ向けている。

 アグニルとエンリヒートは「ちぇ、良いとこだったのに」と呟き唇を突き出し文句を言っている、僕はこの文句が聞こえていたら最悪な事態になっていただろう。


 そんな事より、アグニルは最後に何を言おうとしたのか━━、少しだけ卑猥な妄想をしてしまった事は内緒にしておこう。





「とりあえず今日はゆっくり休め、しばらくはお前の精霊の事とかは秘密にするから、お前らも誰にも言うなよ」


「わかりました……ありがとうございます」





 仲神は僕らに背中を向け、手をめんどくさそうにしながら上げている。

 なんだかんだ生徒想いの教師なのかな、と僕は思えてきた。





「なあ柚木、先生に聞かなくて良かったのか?」


「えっ、何を?」


「いや……お前の部屋に三人は狭くないか?」


「あっ」





 恵斗の言葉を聞いて思い出した。

 昨日は二人だったからなんとかなったが、三人では寝る所が無い。

 ベッドに一人、ソファーに一人、━━床に一人か。





「昨日みたいにくっついていれば私達は大丈夫ですよ?」


「━━ッ!! 馬鹿!!」


「なるほど……昨日楽しそうな声が聞こえていたのはそういう事か」


「こんな少女を……犯罪ですよ」





 二人からは再び痛々しい視線を感じる。

 どうして余計な事を言うのか、というより無理矢理僕の布団に入ってきたのはアグニルだと文句を言ってやりたい。





「まあ、私達は実年齢は高いから犯罪にはならないぞ? ほら主様、愛の巣に帰ろう!!」


「さあさあ行きましょう主様!! ではお二人共、私達はこれにて!!」


「ああ……また明日な!!」





 恵斗と雅に見送られ、僕は二人の幼女に手を掴まれ僕の部屋まで連行されていった。

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