第3話


「えっと……自己紹介から始めますか?」


「なんだ!! 聞く前に自分から名乗れってんだよ!! なぁヤキト兄ちゃん!?」


「本当だぜ!! 人に名前を尋ねる時はまずは自分からって習わなかったのか!!」


「ヤキト兄ちゃんとユキト兄ちゃんの言うとおりだぜっ!!」


「私の主様になんたる悪態━━、ゴミ箱行きにさせてあげましょうか?」




 説明を終えて解散した生徒達、三人は集まり交流を深めようとしたのだが━━。

 人間達よりも騒がしい精霊達の妨害により全く話が進まない、唯一わかった事は三匹の小人は三兄弟で。


 赤い帽子が長男のヤキト。

 青い帽子が次男のユキト。

 緑の帽子が三男のヨキトという名前らしい。


 どれも顔は人間そっくりで、ヤキトが少しイケメン顔で、ユキトが少し馬鹿っぽい顔、ヨキトは女の子らしい可愛い顔をしている。


 だが三匹とも性格は変わらず、騒がしく口が悪い。


 そんな三兄弟を完全に放置しているみやびは何も喋らず下を向いている。


 アグニルは幼女の姿には似合わない言葉を発し威嚇している。

 身長はアグニルの方が少し上だが、正直ドングリの背比べ、子供の喧嘩だ。


 恵斗はそんなやりとりを見ながら、ゲラゲラと笑うだけで何も言わない。

  

 そんな僕達三人を、まるで何処かの珍妙な生き物を見る様な眼差しを向けている他の生徒達。


 そんな三人を見兼ねたのか、




「おいっ、お前ら注目を浴びてるぞ!!」


「あっ、すみません……ちょっと収集がつかなくて」


「はぁ━━、雅、拘束チェーンと唱えろ」


「えっ! はい━━、拘束チェーン!!」




 ため息混じりの仲神なかがみの言葉を聞いて、慌てて詠唱を始める雅。

 その瞬間、雅と三兄弟の小指に填められた緑色の精霊石が輝き、三兄弟の身体を銀色の鎖が締め付けた。




「ぎゃ!! 何だよこれ!?」


「これは最後の手段だが……自分の霊力コストを多少消費する変わりに言うことを聞かない精霊を抑え付ける方法だ。縛る鎖の強弱は心の中で念じる強さによって変わる」


「こんな方法が……三人とも静かにして!! わかった!?」


「うっせぇ変態女!! 痛くなんか━━、ギャャアアアア!!」




 まだまだ強気な三兄弟、だがそんな三兄弟を縛る鎖の力を強める雅。

 観念したのか、人の顔をした三兄弟は今にも泣きそうな表情をしている。





「わかった、わかったからこれを離せ!!」


「三人にも同じ事を言ってあげる━━、人にお願いする時はなんてお願いするのか……習わなかったの?」


「うっ、もうしません……から、離してください」


「聞こえないんだけど、二度言わないと理解できない頭なの?」


「くっ、もうしませんから許してください!!」




 いつもは凄く大人しい雅だが、今だけは物凄く大声を発している。

 そして鎖で縛りながら罵倒する雅の表情は、男性なら興奮するものがあった。





「主様も……私の事を縛るのですか?」


「いやいや僕はそんな事しないよ、それにアグニルは大人しいからする必要はないよ」





 アグニルは右足を掴んだまま、首をかしげ見上げてくる。

 そんな可愛い幼女を縛る事なんて僕にはできない。それにそんな事をしたら周りの視線が━━。





「でも、こんなに霊力を使って大丈夫なんですか? ただでさえ精霊を召喚した状態なのに」


「ああ、それは問題無いだろう━━、何故だか解明されてないが、謎精霊イレギュラーは霊力の消耗が少ないからな」


「そうなんですか」





 仲神の言葉を聞いて三人は頷く、精霊を一時間召喚した状態でもかなりの気だるさがくると言われている、だが、僕も雅も全くそんな事なく元気にしている。

 雅はまだ三兄弟を縛りあげ、口の両端を吊り上げ笑っている。




「それと、明日の侵略者アンドロット討伐は私も動向するからな」


「えっ? 仲神先生もですか?」


「なんだ、不服か? 安心しろ、私も不服だが上の命令だ。謎精霊は名前の通りまだその正体が判明されてない、全く不可解な精霊だからな━━、まあ監視みたいなものだ」




 仲神は三人はだるそうな表情を三人に向けている。

 結局何の実りのある会話はできず、今日は各人の寮へと帰る事にした━━、のだが。





「主様はここで一人で暮らしているのですか?」


「うんそうだよ」





 アグニルは僕のベッドをピョンピョンと跳び跳ねトランポリンのようにして遊んでいる。

 この寮は一人部屋で、一室のみと狭いのだが、僕一人だとそんな気にはならない。


 喉が渇いた、アグニルと一緒に飲み物を飲もうと考えているのだが、果たして精霊は何を好むのか。


 一応アグニルに聞いたが、「何でも大丈夫です」と言われた。




「さぁアグニル、どれが飲みたい?」


「…………………………これ美味しいです!!」




 水、お茶、牛乳、アイスコーヒー、ジュースを目の前に置いて飲み比べさせた。


 どうやらアグニルの口に一番合ったのは牛乳みたいだ。


 両手でグラスを持ち、凄い勢いで飲み干し「ぷはー」と満面の笑みを浮かべている。


 これが母親が感じる我が子への母性本能というものか、今ならどんな高級な牛乳でも買ってあげたいと思えてくる。





「ねぇアグニル、君はどんな精霊なのかな?」


「私ですか?」





 さすがに自分ではわからないだろう、こんな小さな幼女が戦えるとは思えない、明日の為に何か少しでも能力を知りたいのだが。





「私は、精霊というよりは━━、初代精霊召喚士です」


「……ブッ!!」





 アグニルの予想外の言葉に、ジュースを口から吹き出してしまった。

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