第17話


「ゲーム出来るんだ。ちょっと貸してみ、ママ」


「あのねサリーちゃん。わたしたちがゲームなんて出来るわけないでしょ。サリーちゃんもやってるでしょ、喫茶店でインベーダーゲーム。数秒で終わっちゃうくらい鈍臭いんだから、わたしがゲームなんかやってるわけないでしょう」


 高校生のとき、学校帰りによく喫茶店へ行っていた。友達がインベーダーゲームでずっと遊んでいるのを見ていると、というより、喫茶店のテーブルがゲーム機になっていて、天板がゲームの画面となっていたので、嫌でも見えてしまうのだ。わたしも何度かやってみたが、すぐにゲームオーバーになるので、楽しくもなんともなかった。ゲームもスポーツも苦手なのだ。


 スマホのアプリには、たくさんのゲームがあり、無料なので一応インストールはしてみるものの、何が楽しいのか全然わからないものばかりだ。敵を倒したりするものや、パズルのようなゲームもやってみたが、すぐにゲームオーバーになってしまう。わたしにとっては、ただストレスが溜まるだけなのだ。唯一楽しいと思ったのは、果物や野菜を育てて、売ったり買ったりするゲームや、キャンディを揃えて設定された点数をクリアすると、次のステージへと進めるゲームだ。


 野菜を育てるのはすぐに飽きてしまったが、キャンディのゲームは現在1060レベルまでクリア出来ていて、それなりに難しいがコツを掴むとクリア出来るので、小説を書いていて筆が進まないとき、気分転換にやるのに丁度良いゲームなのだ。


 だけど、それをサリーに言うわけにはいかない。スマホを乗っ取られてしまう。今日もお昼から、小説の更新をしようと考えていたのに、何も出来なかった。寝る前までには、少しでも更新しておきたいのだ。みんなが寝てから……。


 作家さんたちは、PCで執筆している方が多いようだが、そんな高価なものは買えないし、人間嫌いで人間恐怖症のわたしは、電器屋さんに行くこともなかなか出来ない。


 スーパーなどでは、店員と話すことと言えば、お箸やスプーンが必要かどうかと聞かれることくらいで、それもたまに鬱陶しいこともある。だけど、ネットスーパーで注文出来ても、インターホンで対応したり、玄関先で何やらやりとりすることも鬱陶しいので、スーパーへ自ら行く方がまだましだ。


 とにかく、なるべく人に会いたくないし、人と関わり合いになりたくない。宅配業者とも会いたくないので、ネット注文もやめている。クレジットカードも信用出来ないので作っていない。いつも渋々現金払いだ。唯一持っているのは、ワオンカードだけだ。5%OFFのときに必要だからだ。いろいろな店でポイントカードを勧められる度にイラっとする。


 だけど、自覚はないのだが、わたしこと優子は多重人格者なのだ。なので、たまに別人格の積極的な性格の者が現れたときに、優子には出来ないことをやってくれたりする。


 スマホを買ったときも、別人格が出てきたから買えたのだと思っている。6人が別人格だとすれば、積極的でそれをやれるのはサリーだけのような気がするが、サリーが出てきてスマホを買ったのだとすれば、サリーはそのことを覚えているのではないのか。


 いったい、この6人は何者なのだろうか。やはり、わたしの幻覚なのかもしれない。


 いろいろ聞くのもめんどくさいし、今日はとても疲れたので、後はお風呂に入り早く寝たい。


 〜〜もうすぐお風呂が湧きます〜〜


「わぁ〜」

「えええーー⁈」

「お風呂が喋った〜‼︎」


 いちいちいろいろ反応する3人たちだ。3人とは、サリーと美佐子と成美のことだ。後の3人の眞帆と桃子とアリサは、相変わらずすぐに固まる。


 中学生までくらいのときは、ビックリしたり嬉しいことがあっても、人前で表情に出したり、言葉に出すことはなかった。出さなかったというのか、出せなかったというのか、出なかったというのか、どれが正しいのかはわからない。


 心の中では「わぁ〜ビックリしたぁ〜」という風に、すごくビックリしているし、嬉しいときは「やった〜‼︎」と言って飛び跳ねているように、すごく喜んでいるし、好奇心も旺盛だし、冒険心もあるわたしなのに、人前では何の表情も出すことはない。そんな人間だった。

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