第16話
「ママのバッグの中で、さっきから音がしてるんだけど、なんの音なんだ?」
スマホの通知音のことだ。今日は全くスマホを見る暇がない。TwitterやFacebookやLINEや小説サイトを、全然チェック出来ていない。
「これの音よ」
わたしはバッグからスマホを取り出し、サリーに見せた。スマホなど見せてしまったら、また騒ぐのはわかっていたが、見せるしかないと思ったのだ。
「何それ」
「わぁ〜何それ」
「ゲーム?」
「早く言えば、携帯用の電話。だけど電話以外のいろんなことも出来るの」
「携帯用って?持ち運べるってことか?何処かの社長が、車の中に電話付けてるのは知ってるけど、バッグの中に入れていけるってめちゃくちゃスゲーな。うちはまだ黒電話しかないよ。公衆電話がなくなったのか?不便じゃん」
街中に公衆電話がないことは、昔だとめちゃくちゃ不便に感じることなのだろう。ケータイを持っているのだから、不便なことは何もないのだけれど。
「わぁ〜なんか大きいね。わたしも携帯電話持ってるけど、それ折りたためないの?携帯できるくらい小さいから携帯電話じゃなかったの?それをバッグに入れて持ち歩いてるの?重そう。わたしのケータイもいろいろ出来るよ。どこが違うの?メールしたり、ゲームしたり、写真撮ったりする以外にも、何が出来るの?写真が撮れるようになったのも、つい最近だけどね」
美佐子が興奮気味に聞いてきた。美佐子が持っているのはガラケーのことだ。確かにガラケーでも、スマホと同じようなことは出来る。わたしもスマホを買ったのは3年前くらいで、それまではケータイ小説を書くのもガラケーでやっていたので、スマホなんか必要ないのではないかと思っていたくらいだ。しかし、写真の画質はかなり違う。
6年前くらいから、日本でもSNSが流行し、それまでは友達だけとのメールだけしか出来なかった携帯電話は、SNSで世界中の人と話すことが出来るようになった。独り言のようなものを投稿すると、早いときは数秒で反応がある。だけどそれはフォロワーさんと呼ばれる人がいての話だ。
登録した初日は、何をどうすれば良いのかわからず、とりあえず、つぶやきと言われる投稿をしてみたが、なんの反応もなかった。それもそのはずだ。フォロワーがいないということは、誰もその投稿を見てくれていないのだから。
あなたにオススメのユーザーさん、みたいなところを見てみると、有名人でフォロワーの多い人の順位が出ていた。有名人をフォローしても何も起きない気がしたので、とりあえずガチャピンだけをフォローしてみた。するとタイムラインと呼ばれるところが、ガチャピンのつぶやきでいっぱいになった。
もう何がなんだかわからなくなり、しばらく放置して、使い方がわかってから再びログインし、今度は普通の人をフォローすることにした。
どこからどんな風に探してフォローすればいいのかわからなかったが、次第に慣れてきて「フォローさせて頂きました。よろしくお願いします」などと挨拶しながら、少しずつフォロワーさんも増えてきた。
無視する人もいた。相互という関係になっても、話しかけてみると無視されることもあった。無視されることは、わたしにとっては何より傷つくことだったので、ショックを受けた。何故無視し続ける人がいるのかというようなことを、ツイートしてみたりした。
すると「それがSNSというものだ。自由にツイートし、返事をしないのも自由」などというリプライがたくさん来て、更にまた傷つくことになった。
それはSNSの世界では正しいことなのかもしれない。すでに何千人、何万人というフォロワーがいる人が、ひとりひとりに返事など出来るはずがない。ならば何故わたしをフォローしたのか、そんな人に限って向こうからフォローしてくる。フォロワーをたくさん集めて、有名人にでもなった気分でいるのかなどと思ったりもした。
そんなことが何度も続き、SNSという世界にいることが虚しくなり、やめてしまった時期もあった。
しかし人間は孤独で、わたしも孤独だった。寂しくなりSNSを再開させてみると、タイムラインに綺麗な夕陽の写真が載せられていた。それはわたしがフォローしている人が、リツイートしたものだった。早速、その写真を載せた主をフォローし、そこから写真を投稿する人がたくさんいることを知った。
一眼レフで撮った写真を投稿している写真家さんが多かったが、スマホで撮った人の写真もとても綺麗だった。わたしがガラケーで撮った写真は小さくてボヤけていた。写真家さんはみんな優しく、ちゃんと返事をくれた。
スマホに変えたときに、わたしも写真を投稿することを勧められたが、とても恥ずかしくて勇気がなかった。
ある日、とても綺麗な雲に隠れた夕陽から光が放射線状に広がる写真が撮れたので投稿してみると、瞬く間に500人以上の人からリツイートされ、綺麗だとかすごいとか言ってもらえた。
それを機に、すっかり写真を撮ることにハマってしまったわたしは、いろんな風景を撮っては投稿していた。
しかし、そのうち写真だけを投稿するSNSが出来たことで、写真家さんは、そちらに移行していった。
それから今度は、小説を書く人が増えはじめて、わたしもガラケーで書いていた経験もあったので、再び小説を書くことにしたのだ。
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