第7話 残酷な宣告
理恵の同級生、本田君のモンキーを預かって二日後。 二人を呼んで相談することにした。
「おっちゃん、速人のバイクはどう?」
「本田君のバイクは厳しい状況やな」
「速人で良いです」
「じゃあ速人、今から厳しい事を言うぞ」
心を鬼にして自分の考えを言った。
「部品代・工賃込みで十五万円。うちも商売や。損することは出来ん。正直、中古のまともな奴を買った方が早くて安上がりやと思う」
二人の表情が曇る。それでも言わなければならないことはある。
「まともな部品はフレームだけ。使える部品は多少あるけど殆どが駄目。肝心なエンジンが正体不明で怪しい。ホンダ純正とボルト穴位置が違うからガスケットや消耗品の流用不可能。オーバーホールもどうなるかわからん。ノーマル部品があるなら元の戻すのは早いけど持ってるか?」
速人は首を横に振った。恐らくノーマル部品は下取りして売りさばかれたのだろう。
「邪魔になるだろうから処分しておくって言われて渡しました……」
下を向いて泣き出してしまった。
「おっちゃん何とかして……街の皆が「大島なら何とかする」って言ってるもん。何とかしてぇな……」
速人につられて理恵まで泣き出してしまった。
続ける。
「おっさんも仕事やからな、金を稼がんと喰って行けん」
そう言えば俺は元々は客だったなぁ。なんで店を継いだんだっけ?
先代の顔が脳裏に浮かぶ。
『金が無い?ほな手を動かせ。自分の手を汚せ』
ああ、エンジンを壊してから入り浸る様になったんや。
「わからん所は教えたる。場所と工具は貸す。自分でやるか?」
二人は何か言いたそうだが無視して続ける。
「素人がバイクを分解して組み立てるなんて無理と思うかもしれん。でも、プロかて最初は素人なんや。そもそも人間が組み立てた物が人間に直せん訳は無い。自分のバイクや。失敗しても責められる事はない」
……と立派な事を言っている様に聞こえるが先代の受け売りである。俺だって最初は素人だった。ボルトを折り、ナットを舐め、ネジ山を潰して整備を覚えたバイク小僧だ。おっさんになった今でも心は十代のまま。顔に皺は増えたし毛は抜けたが心までは老けていない。
「速人、やってみたら?おっちゃんとやったら出来るって」
「……やってみます。教えてください」
速人はか細い声で答えた。
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