第6話 迷走したカスタム

閉店後、預かったモンキーらしき車体をチェックした。


エンジン周辺からチェックしていく。まずエンジンがホンダ製と違う。

大陸製と言われる社外製のコピーエンジンだ。

シリンダーの刻印は49cc。本当だろうか?だとしたらなぜ積み換えた?

レーシングタイプのイリジウムプラグが付いている。

熱価が間違っているか燃調が濃いのか、煤でまっ黒だ。


マフラーにJMCAの銘板が付いていない。

音からして音量規制適合ではないのは解っていた。造りも荒い。


高価たかそうな大きなキャブレターがついている。

埃の多い一般道を走るバイクでエアクリーナー無しのファンネル仕様だ。


(砂埃でボアアップをするつもりか?雨の日はどうするんや?)


毒々しいアルマイトで着色されたインマニアダプターが付いている。

これがまた造りが荒い。そもそも何故付けたか解らない部品だ。


「最高速狙いか?普段使いじゃないな~」


口に出すつもりは無いけど思わず口に出る。


CDIは社外品だ。物自体は悪くなさそうだ。スイッチを切り替えて

点火時期を調整できるタイプだ。


(レース仕様みたいな点火時期やな…これはアカンやろう…)


何でもかんでもスイッチをONにすれば良いと思っていたのだろうか?

物自体は悪くない。エンジンの特性に合わせて調整すれば使えるだろう。


続いて電装品。格好は良いが機能しなければ意味が無い。

LEDウインカーは作動が怪しい。点滅したりしなかったりする。

点いても点滅が速すぎる。意図的にか偶然かはわからない。

方向指示器の点滅回数は決められている。1分間で120回未満…だっけ?


配線も加工してある。加工と呼ぶのも躊躇われる雑な仕事だ。所々にビニールテープが巻かれてある。


(せめて絶縁テープを使えよな…)


テープの下には寄り合せた配線。お約束の様な物だ。


ハンドルは動かすと何かが引っ掛かる。

ステムのベアリングだろう。ネックベアリング要交換だ。


エンジンのマウントボルトはナットが無くなっている。

締め付けトルクを間違ったか、振動で外れてしまったからだろう。


スイングアームは長い。気のせいか捻じれているように見える。

雑な溶接だ。国内メーカーの物とは思えない。

フェンダーもホームセンターで売っている汎用ステーで付けてある。


変な所だらけで疑い出せばきりがない。


フレームは…歪みはなさそうだ。車体番号も正規の打刻だ。


(変な加工はされていない。これで社外フレームやったらアウトやったな…)


とりあえず今日はここまでとしよう。


風呂に浸かりながら考えてみた。


(使える部品は少ない。ノーマル部品が残っていたら元に戻せるけどな)


ネックベアリングまで傷んでいるからフレームまで分解して組み直した方が早い。もはや修理と言うよりレストア状態だ。本田君にどうやって伝えたものか考えながら眠りについた。



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