第3話 ノーマル風カスタム
ホンダモンキー・ゴリラはシンプルで弄りやすいバイクだ。
一昔前はフレームとクランクケースが在れば1台組めると言われたが、今は社外品のフレーム・エンジンが有るのでホンダの部品を使わず1台組む事が出来る。
「はぁ。うちの店では取り扱っていませんので……はぁ、すいません」
近頃純正で無いエンジンについての問い合わせが多い。外国製のカブのエンジンを模したエンジンは数社から販売されている。構造はほぼ一緒だが細かな所に違いがある。これが問題でメーカーによってはガスケットの供給が無い所もある。ホンダ純正とまるっきり同じ(これはこれで問題だと思う)ならホンダ純正部品を使って直すけれど、微妙に違って互換性の無い部品も多い。
ガスケットやパッキンなどの交換必須の物が無ければ組み立ては出来ない。
故障したら分解して組み直すよりエンジン丸ごと交換した方が安上がりな事も多いようだ。ギヤが割れて部品を注文しようとしたら送料込みでエンジン本体を買う値段とそれほど変わらなかったみたいな話は聞いた事が有る。
カブにポンと付けられる150ccの排気量の物も有る。このエンジンを積んで正式に登録変更をすれば自動車専用道路を走る事が出来るカブが作れる。モンキーだって同じ。社外のロングフレームと組み合わせれば積めない事は無いけれど、それってモンキーなのかな?小さなモンキーの車体で高速道路を走るのはどうかと思うが、国道161号線バイパスを走る事が出来るのは魅力的だ。
今日のお客は近所の婆ちゃん。エンジンからのオイル漏れが激しい。石か何かにぶつけたらしくクランクケースに亀裂が入っている。
「婆ちゃんよ。エンジンが割れてるわ。直す?中古にする?」
大体こんな場合の返事は解っている。中古に載せ替えだろう。
「安い
婆ちゃんは泣きそうになって答えた。お年寄りにとってカブは大事な足なのだ。
「ギヤが少ないけどセル付きがあるで。割れたエンジン下取りして8000円」
年寄りに大事なのは4速ミッションよりセルなのだ。逆に若い子には4速ミッションを欲しがるお客さんが多い。余り部品を組み合わせて作ったセル付き3速50㏄のエンジンは常に1台は用意してある。午前中に預かれば夕方には渡せるので好評だ。儲けは少ないけど。
「それで頼めるけ?明日の昼くらいに出来るやろか?」
「ん~何とかしとくわ」
婆ちゃんに自転車に乗って帰って貰ってエンジン積み替え。キャブレターや周辺の部品は元から付いていた物を使う。1時間もしないうちにエンジンを交換してチェックの為にしばらく回す。異常なし。
「婆ちゃんの乗る分にはこれで良し」
閉店後、下取りしたセル付き4速のエンジンを分解してミッションを取り出す。カブ70の中古エンジンと組み合わせて4速の72ccエンジンを作るのだ。カブ70の部品は50ccの物より強化されていることが多い。学生が少し無茶をしても耐えてくれる。
太いコンロッド・大きなサイズのベアリング・大容量オイルポンプ。50用よりバルブ・ポートの径が大きなシリンダーヘッド。全てが純正で付いているメーカー謹製のフルチューンだ。これで4速ミッションが有ったら完璧だったと思う。
これにボーリング済みのシリンダーを組み付ける。ピストンは純正オーバーサイズで75cc。カブに積む場合はカブ70・90のキャブレターを。モンキーに積む場合は他車純正のキャブレターを使う。最近は流用していたキャブレターが生産停止になったので京浜PC20キャブを使うことが多いけど、これも元はと言えば125㏄のバイクで純正採用されたキャブレターだったりする。
ついでに遠心クラッチをカブ90用にしてある。こっそり強化クラッチだ。
うちの店で弄ったエンジンは手間をかけた割に外見は全く変わらない。
「オイルクーラー無し、メッキパーツ無し、バフ掛けもしてないからな」
弄ってあるのはプロなら一目見れば解るはずだ。佇まいが違う。佇まいは間違えたボルトが使われたり社外のガスケットを使っただけで変になる物だ。だが、理恵のゴリラは今都のバイク店にはノーマルとしか見えなかったらしい。
理恵は何故ノーマルと言われたのだろう。今都のバイク屋は商売上手かそれとも……単なる素人かだ。
(もしかすると、学生たちを喰い物にしてるのかな)
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