第42話 一進一退

 チュリスを死者生還魔法で生き返らせる為にかなりの時間を要した。もしかしたら、アリシアとカルバス兄妹の活躍によって敵兵を倒し、もうすでに戦闘は終結しているかも知れない――そんな僕の見通しは完全に甘かった。 


 通りの中央では馬に乗った武将が兵士に指示を出している。

 武将を囲むように兵士が四方に分かれて弓を構える。

 その数はほとんど変化なし。


 アリシアとカルバス兄姉が縦横無尽に動き回り攻撃を試みるも、無数の矢が彼らの行く手を阻んでいるのだ。


 偶然近くに降り立ったカルバスに声を掛ける。

 すると、何を思ったか彼は僕の背後に回り込み、腰に手をまわしてきた。

 次の瞬間には僕は斜め後方へ向かって空中に飛ばされていた。

 まるで丸太を放り投げるようにカルバスに投げ飛ばされていた。


 再び森の中に引き戻されてしまった僕に向かってカルバスが――


「ユーキ殿は命を何と心得ておられるのです? 闇雲に戦闘域に入っては幾つ命があっても足りませんぞ!」


 魔人に命の大切さを説教される日が来るとは思わなかったな。

 でもありがたい。


「ユーキ殿は弓矢一つとて避ける術を持っていない弱さゆえに足手まといなのだ!」


 前言撤回――


 カルバスの合図でアリシアとカリンとの三方向からの一斉攻撃を仕掛けていく。

 カルバスは森側から。

 カリンはそこから少し離れた高い木の上から。

 アリシアは民家の屋根から。

 目指すは敵の武将一人。


 それぞれに向けて射られた矢は、一見バラバラな軌道を描いていた。

 しかし馬上の武将が腕を振りながら何か言葉を発するたびに矢の軌道が変わる。

 三人を追いかけるように矢が向かっていく。

 しかも、当たる直前に急に速度を増して鋭く突きさしに来るのだ。


 アリシアは体を回転させて双剣で撥ね除ける。

 カルバスとカリンも短剣で弓を打ち払う。


 致命傷には至らないものの、圧倒的な矢の数によって三人は後退を余儀なくされていた。


 この一進一退の攻防が幾度となく繰り返されていたのだ。


 僕にできることはないのか?


 馬上の武将は『召喚されし者』に違いない。この世界にはありえない能力ちからを天使から授かった勇者だろう。なら、僕にできることがあるはずだ。


 敵将に一瞬でも近づくことが出来たなら――


 しかし、アリシア達が苦戦している無数の矢はどう対処する?


 考えろ! 何か――手があるはずだ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殺戮と鎮魂のチートブレイカー とら猫の尻尾 @toranakonoshipo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ