過日

第14話 今日の夢のこと

 まだ、僕は、女満別から飛んで帰ってきたのが昨日のできごとのような気がしている。一昨日はまだライブのことが忘れられず、仕事の納品を一つとばした。昨晩は、ひどい下痢と嘔吐を繰り返して、まるで僕の身体が東京に在ることを激しく拒んでいるようだった。

 空がない。

 泣きたいくらい、ここには空が見えない。智恵子じゃなくたって何度でも言ってやる。この街には空がない。空がない、空がない、空がない。

 君の夢を見た。中野さん。君の夢を見た。

 君は、エレキギターを抱いて歌っていた。真っ赤なフェンダー・ムスタング。まだ身体に余る紺の制服を着て、学校の音楽室みたいなところで、黒板の前で、少し照れながら歌っていた。

 どこかで聞いたことのあるバラード。君は、それをぎゅっぎゅっと、パンチの効いたロックアレンジに変えていた。澄んだ声が紡ぐメロディ。

 ビートルズ、うん、イエスタディ。

 いつの間にか目が覚めていた。

 頬に手をやると濡れていた。血みたいにぬるりと、濡れていた。

 中野さん、僕は、君の夢を見たんだ。

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