閑話

A.お伽話

このお話は、ライトナイト庭園ガーデンに伝わる誰もが幼き頃に一度は聞いたことがあるお伽話。


遥か昔、光の大庭園ライト・ガーデン闇の大庭園ナイト・ガーデンで大きな争いが起こりました。

いつ終わるかもわからない大きな争いでした。


光の大庭園ライト・ガーデンより天族の軍勢が闇の庭園に攻め込んできました。

闇の大庭園ナイト・ガーデンの魔族の軍勢が応戦して、なんとか庭園を守り、天族の軍勢を退かせようとしていました。

しかし、光の天族の隊長は、責任感が強かった為、部下の軍勢を全て撤退させた後に自爆天術で一矢報いようとしました。

それに気づいた闇の魔族の隊長は、自爆寸前に自らを含む周囲の者達全てを瞬間的に退避させた為、自爆は、ある意味で成功し、ある意味で無駄に終わってしまいます。

大いなる闇が拡がる闇の大庭園ナイト・ガーデンの一部に強大な光が輝き、地に落ち、天へと昇っていきました。

光が落ちた闇の大庭園ナイト・ガーデンの一部は、何もかもが光に奪われ、壊滅的な状態になりました。


退避した地から見ていた魔族の少年は、光が収まった後、周囲に気付かれないように光が落ちた地に向かって走り出しました。

光が落ちた地には、自爆法術を放った天族が息絶えようとしていました。

少年は、この天族に対して、持てる全ての魔力を使って、治癒魔術を施し、一命を取り留めることに成功しました。


魔族の少年は、争いの中、事故に遭い、両親を失いました。

少年の両親は治癒魔術を使って、敵味方問わず、様々な種族の治療を行っていたのです。

少年の母は、言いました。


「目の前に助けるべきものがあれば、見返りなど求めず、誰であろうと助けてあげなさい。

全ての者に幸せを与えることは出来ずとも、その者を幸せに出来るのであれば、いつか自身にも幸せは返ってくるのだから。

お父さんもお母さんも、目の前で助けを求めるものを治療し治すことが喜びであり、幸せなの。

傷つけることで幸せは得られない。誰かが不幸になる。

それならば治療することで幸せを得られるのであれば、それで充分なのだから。

これは綺麗ごとと呼ばわれても、私達にとっては真実であり事実なの。

だから、いつかこういう風になってくれると私達は幸せなのよ。」


この母の言葉を胸に少年も同じ道を歩み始めました。

両親を誇りとし、周囲の誰に何を言われようと両親の教えを守り、助けを求めるべき所に行き治療をしていたのです。


少年は、一命を取り留めた後に天族を自分が住む隠家に匿うことにしました。

治療の為、天族の鎧兜を脱がせるとそれは美しい天族の女性でした。

少年は驚きつつも、魔術で衣服に着替えさせ、出来る限りの治癒魔術を施しました。

それでも、自爆の代償は大きい為、意識を取り戻すまでに時間がかかります。

少年は毎日、治癒魔術を続けました。

1ヶ月が経ったある日、天族の女性は目を覚まします。

自分のおかれた環境がわからず、目の前に魔族の少年が、治癒魔術を行っている姿が目に入りました。

天族の女性は、少年に尋ねます。


「君は何故、私を助ける。あのまま放置しておけば、そのまま殺せただろう。」


「僕は、目の前に助けるべきものがあれば、両親はきっと誰であろうと助けたはずです。だから僕もそれをしただけです。」


「君は優しいのだな。だが、私を助けても何もないのだぞ。」


「お礼をして貰いたくて助けた訳ではありません。あなたが元気になってくれれば、それで満足です。だから、お礼は要りません。」


「君は本当にお人好しなのだな。しかし、私にはもう帰る場所はない。お礼も出来ない。なら、私はどうしたらいい?」


「できることなら、生きてください。それで僕は充分です。」


少年は下級魔族でしたが、強大な魔力と魔術資質がとても高い才能の持ち主でした。

その為、術に関しても、基本的なものから下級魔術しか教えられなかったのです。

両親より攻撃魔術だけは、誰にであろうと決して使ってはいけないと強く言われていました。


この争いの中で少年は、両親と同じ様に闇の大庭園ナイト・ガーデンの様々な場所に行き、治療を施していました。

回復した際、天族の女性は、身なりを隠し、少年と行動を共にし、少年を見守ることにしようと思いました。


ある日、少年は、いつも治療に赴く孤児院へ行った際に、天族が孤児院を襲撃していました。

無害で幼き子供達を奪おうとした天族に対して、子供達を守る為、少年は両親より禁止されていた攻撃魔術を使い、天族を殺めてしまいました。

子供達は無事、ケガをすることなく全て助けることができました。

しかし、少年は天族を殺めてしまったことに嘆き苦しみ、立ち尽くしていました。

攻撃魔術の威力を調節することが出来なかったのです。

少年の強大な魔力の影響では、下級魔術でも威力が桁違いであった為に殺めてしまった訳です。


少年の戻りが遅いことを心配に感じた天族の女性は、身なりを隠し、少年を探しに孤児院へと向かうことにしました。

隠れていた子供達が出てきて「私たちを助けるためにお兄ちゃんが凄い魔術を使って、悪者をやっつけてくれた。」と話してくれました。

少年は、守るべき者を守ったはずなのに相対する敵に対して、自身が行ったことに後悔の念だけが強く襲ってきます。

天族の女性は、立ち尽くす少年を強く抱きしめました。


「君は守るべき大切なものを守っただけだ。君が後悔をする必要はどこにもないのだ。」


天族の女性は、治癒系の法術は最高位まで使いこなすことができ、少年が殺めてしまった同胞を蘇生することも可能でした。

しかし、天族の女性はそれをせず、少年を強く抱きしめ、少年の心を助けようとしました。

天族の女性も命を救ってくれた少年を助けれなかったことを悔やんだのです。


その後、天族の女性は少年に術の基礎と応用を教えます。天術も魔術も基本は一緒だからです。

生きる為、守る為、助ける為、居場所を壊さない為、様々な思いを込めて。


やがて、立ち直った少年は、天族の女性に願い、光の大庭園ライト・ガーデンにも治療に行きたいと願います。

天族の女性は、それを受け入れ、少年に対して、その手伝いをしたいと願いました。

少年と天族の女性は、身なりを隠し、光と闇の両庭園の様々な場所へ行き、治療を施しに行きました。


やがて、少年は青年となり、傍で支えてくれた天族の女性を敬い愛し、そして妻とします。

魔族と天族が一緒に暮らす日常。

この世界ではありえないこと。そう、紛争の中で生まれた一つの奇跡。

どちらにも属さず、どちらにも救いの手を差し伸べる魔と天の夫婦。


そして、愛し結ばれた二人の間に、子が誕生しました。

双子の姉妹。姉は左翼が黒く、右翼が白。妹は左翼が白く、右翼が黒。

魔族と天族の混血種。本来なら生まれることは無い存在。

後に魔天の双翼と呼ばれ、両親から授かった英知と高き資質で、ライトナイト庭園ガーデンの英雄となった双子の姉妹。

それはまた別のお語…。


光と闇の長きに渡る紛争の中、家族で様々な場所へ行き、助けを求めるほぼ全てを治療し、治療を害するものに対し、一時的に強大な力で対抗し、その後、害してきたものすら治療する。

この家族の前での争いは、その強大な力で、争いを終結させ、全ての者を治療し、双方ともに強制帰還されていきました。

決して相対するものであろうと、害してきたものであろうと、この家族の前では誰であろうと不殺を貫き通したと言われています。


長きに渡るライトナイト庭園ガーデンの紛争が終結した後、この夫婦は神々より特別な庭園に招かれ、そこで幸せに暮らすことになりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る