任務二日前・午後-2

「あんたかい? 報告にあったのは?!」

 中央に書斎机と書斎椅子が一つずつあるだけの、何もかもが白で統一された部屋。

 美紅に促され、そこに入るや否や、怒鳴る様に尋ねられた。

「え? あ、あの……」

 白髪を肩で切り揃え、白いフード付きのローブの様なものを纏った上品そうな顔立ちの老婆が、白い書斎机の前に、姿勢良く立っていた。

「普通だねぇ!」

 老婆のその言葉に美紅はクスッと笑い、数哉は罰が悪そうに頭を掻いた。

「ほらっ! 受け取りな!」

 老婆は懐から白い小箱を取り出し、それを数哉に向かって突き出した。

「は、はい……」

 数哉は美紅を一瞥すると、ウインクで返されたのを横目に老婆の前まで歩み寄った。

「ほらっ! さっさとしな!」

 老婆は小箱を数哉に押し付けると、腕を組んで数哉を見据える。

「あ、あの、これは?」

「開ければわかるよ!」

 老婆の突き放すような言葉を受け、数哉は渋々と小箱を開けた。

「これは……6?」

 中には、見覚えのある銀色のペンダントが入っていた。

 数哉はそれを取り出すと目の前にぶら下げて眺める。

「これであんたも、〈6³〉の一員だよ!」

「え? 一員? え?」

 いきなりの展開に、数哉は目を丸くして老婆を見つめる。

「失くすんじゃないよ!」

 老婆はお構いなしの様子でそう言うと、数哉から小箱を引ったくり、すぐに懐に仕舞った。

「あ、え? あの……しっくす、きゅーぶ、って?」

「隣の部屋で説明を受けな! 美紅はこっちにおいで!」

 老婆は数哉と美紅にそう告げながら書斎机を周り、白い書斎椅子に腰掛けた。

「は、はあ」

 数哉は老婆の許へと向かう美紅に視線を向けながら、ペンダントを片手にドアへと向かう。

「ああ! これは覚えときな! 〈6³〉は公的機関だよ! 極秘のね!」

 外に出て行く数哉に向かって、老婆はそう言い放った。

「……さて、美紅? あの若造なのかい?」

 老婆はドアが閉まるのを確認すると、美紅に向き直り、声のトーンを落として切り出した。

「はい、私は間違いないと思います」

「そうかい。たった一人の……あんな若造だったとはねぇ」

 美紅の言葉に老婆は両腕を組んで背凭れに深々と背を預け、白い天井を仰いだ。

「はい。この数年の間に起きていた、一連の影消滅事件。その真相は、彼です」

「……ふむ。そうかい。わかった! 詳しく調べてみようじゃないか!」

 顔を下ろした老婆は、鋭い視線で美紅の瞳をしばらく見据えた後、そう答えた。

「よろしくお願いします!」

 美紅は一礼すると、部屋のドアへと向かった。

「そうだ! 美紅!」

 老婆はドアノブに手を掛けた美紅を呼び止めると。

「何度も言ってることだけど、施設内は制服着用だよ!」

 右の人差し指を立てて振りながら、老婆はそう咎めた。

「え~? 任務中だけでいいでしょ~?」

「え~? じゃないっ! いいわけないっ!」

 先程までの緊張感を吹き飛ばすように、ドアに凭れ掛かってだだをこね出す美紅を老婆は一蹴した。

「もう……はいはい、相変わらず頑固なお婆さんだこと」

 美紅がドアを開けながらそう呟くと。

「何か言ったかい?」

「失礼しました~」

 老婆のドスの利いた言葉を無視して、美紅はそそくさと部屋を出ていった。

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