Third・Party(サード・パーティー)警察代理店

にのい・しち

超放置的装置「代理店」

イノベーション

 その男の失意はアリ地獄のように足を引きずられ、深く暗い世界へと沈んで行った――――――――。

 

 どうして、こうなるんだ? 「――――」

 

 俺はただ平凡な会社員でいたいのに、何故、巻き込まれた? 「――――引です」

 

 今まで順調だったのに何故、ここに来て狂い始めた? 「――――えてますか?」

 

 それは耳の内でこだまし鼓膜を激しく揺さぶった。

 

《聞こえてますか?》

 

 男は、その声により現実に引き戻される――――。

 

 彼は目の前の黒いスーツを着た、オールバックの刑事と目を合わせ、弱々しく答える。

 

「は、はい……」

 

 白い壁が囲むこじんまりした室内。


 幅の狭い窓は冷たい風を通し、男の後頭部をくすぐる。


 硬いパイプ椅子に座り胸の下を圧迫する正方形の机は、向かい合う相手の追求から自身の心を守るには狭すぎだ。


 部屋の角に更に小さい机と椅子が設置され、その席に座る制服警官が取り調べの内容を記録する書記を勤める。


 刑事の背後には小さなはめ込み型の鏡があり、視線のようなモノを感じた。


 更には机の隅に取り付けられた小型カメラが、男の失言という決定的瞬間を捉えようと、待ちかまえているように見える。

 

 耐え難い現実。

 それは今現在、警察の取り調べを受けているということだ。

 

 対峙する刑事は静かに口を開くと、歯切れの悪い喋りで聞く。

 

「飲み水の営業をされているとのことですがぁ……タキマグロさん」

 

「いえ、滝馬室たきまむろです」

 

 滝馬室は即座に否定し話の腰を折る

 刑事は何事も無かったように続けた。

 

「相談なのですが。この場で警察に協力的であれば裁判の際、こちらが追求する罪を取り下げて、刑を軽く出来ます。つまり――――”司法取引”です」

 

 その言葉を聞くと男は諦めたように、うな垂れて呟く。

 

「司法取引……ですか」

  

 まったく運命のいたずらというのは、よく出来たドラマだ。

 ちゃんと伏線を回収して来やがる。

 フィクションなら、これは陳腐な刑事ドラマだ。

 

 滝馬室は机の影に隠れた、腕時計に目を落とす。

 

  ――――――――午後七時三〇分。


 滝馬室たきまむろ仁喜ひとよし

 四十歳。

 職業、会社経営。

 

 彼は小さく溜め息をつくと、この場への経緯いきさつを振り返り恨みがつのる。  

 

 思えば、あの時だ――――。

 あの時から、これまで保ってきた均衡が、崩れた気がする。

 

 二週間前――――――――…………。


 ***



 ――――――――――――俺はやってない!

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